サッカーの話をしよう

No.1199 アジアのサッカーを変える『24チームのアジアカップ』

 アジアのサッカーが新しい時代にはいったのを感じる。
 現在UAEで開催されているアジアカップは出場24チーム。5年前にこのプランが発表されたときには、大会のレベルを保つには多すぎると感じた。実際、今大会にはキルギス、フィリピン、イエメンという初出場国が名を連ね、ベトナム、インド、トルクメニスタン、パレスチナ、レバノンなど過去に数回の出場経験はあっても上位の経験のない国もあった。インドは4回目の出場で準優勝1回の記録をもつが、それは1964年のことだ。
 ところが1月5日に大会が開幕して驚いた。これらの国が優勝候補の強豪を相手に大奮闘したのだ。インドが「常連」のタイに4−1で勝ち、フィリピンは韓国を相手に0−1の大奮闘。森保一監督率いる日本もトルクメニスタンに大苦戦を強いられた。
 バスケットボールなどの人気の陰で、フィリピンではサッカー代表は「野良犬」とひどい呼ばれ方をしているが、エリクソン監督はかつてイングランド代表を率いたこともあるスウェーデン人の名将。
 「負けたが、この善戦はフィリピン・サッカーの未来を変える」と奮闘を称えた。
 フィリピン代表の大半は両親のどちらかがフィリピン人ではない。浦和レッズ・ユース出身の佐藤大介も、母親の祖国の代表として活躍した。アジアカップ出場を聞いて、世界の各地から「僕もフィリピンがルーツ。ぜひ代表に加えてほしい」という連絡が絶えないという。
 フィリピンは残念ながらグループステージで姿を消したが、決勝トーナメントに進むチームが16に増えたため、ベトナム、キルギスなどがグループ3位で進出を果たし、ベトナムはラウンド?でヨルダンを相手に堂々たる攻撃的な試合を見せ、PK戦で勝って準々決勝進出を果たした。
 ワールドカップでも1994年大会まで4大会採用されていた「24チーム制」はグループリーグで3位の6チームのうち4チームが次のラウンドに進めることもあって「緊張感を削ぐ」と不評だった。しかし今大会では、4つのグループで8チームが2試合を終わって勝ち点0だったが最終戦で勝てばラウンド16に進める可能性があったため、最後まで熱戦が続いた。
 アジアサッカー連盟の総加盟国(47カ国)の半数以上が出場する「24チームのアジアカップ」は、予想外の成功だった。フィリピンなど代表チームへの期待が低かった国の代表に関心が集まることで、アジア各国のサッカー熱は急激に高まるだろう。そして何より、「弱小国」と見られていたチームが見せた想像を上回るハイレベルなサッカーは、アジア・サッカーの未来への大いなる希望だ。

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(2019年1月23日) 
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