サッカーの話をしよう

No.1176 勝利を導くシュートブロック

 ロシアで行われたワールドカップで目立ったのが、「強豪」と言われたチームの予想外の苦戦だった。
 たとえば1次リーグの初戦でメッシを擁するアルゼンチンが初出場のアイスランドと対戦、26本ものシュートを放ったが、結果は1−1の引き分けだった。
 アイスランドの守備陣は、アルゼンチンがシュートに持ち込もうとするとその前に体を投げ出し、足を出して「ブロック」し続けた。その回数は10回にも及んだ。26本のうち9本はゴールの枠を外れたから、実際にアイスランドのゴールを脅かしたシュートは7本ということになる。
 国際サッカー連盟は、今大会から「シュートブロック」の数を公式記録に入れ、それもシュート数としてカウントするようになった。私の集計では、大会の総シュート数は1612本。うち4分の1強にあたる430本がブロックされた。1試合あたりチーム平均3.4本というところである。アイスランドの10本は異常な数字と言ってよい。
 「ブロック率」1位はスウェーデンの47.1%。際だった攻撃力があったわけではないこのチームが準々決勝に進んだ要因は、5試合で70本も打たれたシュートを33本もブロックした守備の力だった。
 一方、ブロック率が低かったチームは成績が悪かった。前回優勝から1次リーグ敗退という屈辱を味わったドイツは31本に対しわずか4本、12.9%という低さだった。10%台は9チーム。うち7チームが1次リーグ敗退だった。
 日本は平均を上回る28.1%(57本中16本)。相手のシュートをしっかりブロックできる守備組織が保たれていたことが、好成績の要因のひとつだったと言えるだろう。
 タックルは間に合わない。相手のシュートモーションに合わせ、ボールの前に足を投げ出して至近距離でシュートを止める...。ブロックの成否は、ボールをもった相手の動きに最後までついていけるかどうかにかかっている。敏しょう性だけでなく、読みの良さと決断力が必要だ。
 さらには、シュートする相手をマークする選手だけではブロックしきれない場合も多い。味方が抜き去られて決定的なピンチになったら、自分のマークを捨て、体を投げ出してブロックしなければならない。高い集中力のなかでポジションや体の向きの準備をし、その瞬間には考えることなく自然に体が動いているようでなければ間に合わない。
 得点がはいらないのはもどかしいかもしれない。しかしシュートブロックは高度な個人プレーであり、また美しいチームプレーでもある。守備の規律のあるチームだけが、ブロックで勝利を引き寄せることができる。

(2018年8月8日)
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