サッカーの話をしよう

No.1149 テレビのための複雑なキックオフ時刻

 最後の最後に「ジャパン」の名が呼ばれ、日本はH組でコロンビア、セネガル、ポーランドと対戦することになった。ワールドカップ第2戦、セネガル戦の舞台となるエカテリンブルクは、来年のロシア大会の舞台11都市で最も東に位置している。
 ロシアの中央を「帯」のように縦断し、欧州とアジアを分けると言われるウラル山脈の東麓。すなわち「アジア」側に位置する。モスクワから東へ約1700キロ。モスクワとは2時間の時差がある。
 東西に約7000キロの広がりをもつ世界最大の国ロシアには、なんと11もの標準時間帯があり、時差は最大10時間にもなる。今大会会場も、最も西のカリーニングラードと東のエカテリンブルク間の時差は3時間だ。
 国際サッカー連盟(FIFA)発表の試合日程に示されたキックオフ時刻はいずれも試合地の現地時間。日本との時差は、モスクワでは6時間だが、エカテリンブルクでは4時間となる。セネガル戦は現地で6月24日の20時キックオフ。日本では翌日の深夜0時ということになる。
 世界のプロサッカーで最も早いキックオフ時刻として知られるのは2003年にFCバルセロナがスペイン・リーグでセビージャを相手にした試合。水曜日予定の試合を前日に繰り上げたいという要望を対戦相手に退けられたバルセロナは、キックオフ時刻はホームクラブが決められることをたてに水曜日の午前0時5分で強行した。それでも観客は8万を超したという。
 もちろん、ワールドカップにはこんな非常識なことはない。ただ今大会のキックオフ時刻を見ると、13時から21時まで実にさまざまであることがわかる。試合時間を分散させるのは、テレビ放映の都合だ。目の飛び出るような高額で放映権を手に入れたテレビ局ができるだけ多くの試合を生中継できるよう、最大の配慮が払われているのだ。
 1986年メキシコ大会では、決勝戦を含め全52試合中35試合が12時(正午)キックオフだった。1994年アメリカ大会では午前11時半キックオフという試合があった。このころのテレビ放映権料は現在の20分の1程度。それでも最大の「収入源」である欧州の放送局の都合を考えた結果だった。
 今大会でも、大会3日目、カザン(モスクワ標準時)で行われるC組のフランス×オーストラリアのキックオフは13時と早い。この日は4試合が行われ、3時間ずつキックオフをずらせるため、この試合をこんなに早い時間にしなければならなかったのだ。
 試合日程表をながめていると、現代のワールドカップが「観客ファースト」ではなく「テレビ・ファースト」であることがよく見えてくる。

(2017年12月6日) 
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