サッカーの話をしよう

No.117 創造性あふれるシュートが想像力を刺激する

 4月16日のFC東京戦の興梠慎三(浦和レッズ)のゴールは、彼の非凡な才能を感じさせるものだった。
 前半14分、押し込まれていた浦和が中盤で相手のプレスをかいくぐり、FWラファエルシルバが中央から持ち上がる。その十数メートル前を相手ゴールに向かって興梠が走る。だが彼の周囲には徳永、森重、丸山という3人のDFが互いに近距離で並んでいる。普通ならラファエルシルバはスペースのあるサイドへのパスを選択する状況だっただろう。
 興梠は縦に走りながらまず自分の右前のスペースに出すように求め、パスが出てこないと反転してこんどは左前のスペースを示す。そこにラファエルシルバから絶妙のパスが出る。だが彼の右には大柄な丸山が遅れずにぴったりとついている。シュートしても丸山がブロックするか、GK林が止める―。そんな状況だった。林はすでに前に出て止まり、両足をピッチにつけた十分な体勢だった。
 しかし興梠はボールに追い付いた瞬間に左足の内側でボールをとらえる。ボールは力なくころころと転がったが、林は反応できず、FC東京ゴールの右隅に転がり込んだ。
 普通の選手ならもう1歩右足を踏み出し、次の左足でシュートだっただろう。「1、2、3」でシュートという形だ。だが興梠は「1」の段階でけってしまった。完全にタイミングをずらせたことが、ブロックもセーブも許さなかった理由だった。
 半世紀にわたってサッカーを見てきたなかで、「シュートの才能」という面で図抜けていたのは、1970代を中心にバイエルン・ミュンヘンと西ドイツ代表で活躍したゲルト・ミュラーだった。
 「リトルゴール」と呼ばれた。ペナルティーエリア外からのゴールなど見た記憶がない。ペナルティーエリア内、それもほとんどがゴールエリア近辺からのものだったからだ。彼は絶妙にGKのタイミングを外し、思いがけないところにボールを送り込んだ。
 1974年ワールドカップ決勝、オランダ戦の決勝ゴールは、まさにそうした得点だった。ゴールに向かってトップスピードで走り込みながら右からのパスを受けたミュラーは、ボールを2メートルも自分の体の後ろに止めた。そして反転してそのボールに近づくと、再び180度のターンをしながらゴールにけり込んだのだ。
 目の覚めるような強烈なシュートはすばらしい。しかし私は、GKのタイミングを外す興梠やミュラーのシュートにより強く惹きつけられる。
 こんなタイミングがあったのかと、ゴールがはいってから気付かせる創造性あふれるシュート...。それは、私の想像力を刺激し、サッカーを見る喜びを倍加させる。

(2017年4月19日) 
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