サッカーの話をしよう

No.1104 サッカー不在のワールドカップ48チーム案

 私がFIFAワールドカップを初めて取材した1974年西ドイツ大会。2日間試合があったら2日休みというのんびりしたものだった。基本的に1日4試合、25日間で38試合。期間中に試合が行われたのは半分以下の12日間しかなく、原則的に1試合日のすべての試合は同時刻開始だった。
 現代のワールドカップは忙しい。2018年ロシア大会の例をとると32日間で64試合。大会が始まると15日間連続で試合があり、大会期間中に試合がないのはわずか7日間にすぎない。そして1日3試合を時間をずらせて開催するから、キックオフが正午になったり深夜になったりする。開始時刻が他の試合と重なるのは、1次リーグの最終節だけだ。
 この大きな違いの理由は明白だ。テレビ放映の都合である。現在の試合日程なら1チャンネルだけでの放映でも56試合を生で放送できる。ワールドカップはかつて選手と観客の大会だったが、現在ではテレビの都合が最優先だ。無理もない。国際サッカー連盟(FIFA)は、1大会で2000億円もの収入をテレビから得ているからだ。
 先週、FIFAは2026年大会からワールドカップ出場チーム数を現行の32から48に増やすことを決めた。ワールドカップは誕生時の1930年に16チーム制がとられ、82年に24、98年に32と、近年急激に出場チーム数を増やしてきた。
 ワールドカップに限った話ではない。欧州選手権は昨年のフランス大会から24チームとなり、アジアカップも2019年UAE大会からやはり24チームの大会となる。巨大化の波の要因はただひとつ。より巨額の放映権収入獲得だ。
 ワールドカップには「1カ月間、決勝まで7試合」という不文律がある。それ以上の日程も試合数も、主要国の選手の大半を契約下に置く欧州のクラブが認めないからだ。
 「48チームのワールドカップ」では、3チームずつ16組で1次リーグ、その後に各組2チーム、計32チームでノックアウト方式の決勝トーナメントを行い、「不文律」を守ることができるという。
 だが3チームグループは日程の不公平を生み、増えた試合を無理やりこの日程に押し込むため、選手や観戦客のストレスはさらに増大する。「レベルが下がる」という反対論もあるが、収益増を目指すあまり「サッカー(選手と観客)不在」がさらに広がるのがより大きな問題だ。
 こうまでして収入を増やす必要が、FIFAにはあるのだろうか。現状の収入でも、何十人もの汚職役員が巨額を懐に押し込むのに十分だったではないか。48チームに増やして世界の多くの選手にチャンスを広げると言うなら、17歳以下や20歳以下の育成年代の大会のほうがふさわしい。

(2017年1月18日) 
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