サッカーの話をしよう

No.1068 FKの前には手で止める

 サッカーには無数と言ってよい「ディテール(細部)」がある。そのディテールを一つひとつ積み上げることにしか勝利への道はないと、コーチたちは口々に語る。毎週このコラムを続けることができるのは、無数にある「細部」のおかげでもある。
 きょうの話は「細部」というよりむしろ「些細なこと」かもしれないが...。
 あるJリーグの試合で、あるチームがハーフライン付近で得たFKを素早くけって逆サイドに展開した。受けた選手は大きなスペースのなかにいる。チャンスが生まれそうな状況だ。だがその瞬間、鋭く主審の笛が鳴る。ボールが静止していなかったのだ。
 思わず「もったいないな」とつぶやいてしまう。
 相手に反則があったときに与えられるフリーキック(FK)。ルールでは「反則の起きた場所」で(第12条)、ボールを「静止」させて(第13条)行わなければならない。ただ、場所については、ゴール前で直接狙うことができる場合を除き、そう厳密ではない。著しく有利になるケースでなければ、数メートル程度ずれていてもそのまま認められる。
 しかしボールが止まっていないときには、レフェリーたちは厳格だ。動いているボールをけると、FKがあったことが明確にならないからではないかと思う。
 ゆるく転がっているボールは、芝の上では数秒で止まる。多くの選手はそれを足で押さえて停止させ、FKをける。しかしタイミングを逃したくないためにまだ動いているボールをけってしまうケースを、Jリーグでは毎試合のように見る。「些細なこと」を実行していないのだ。
 「些細なこと」とは、体をかがめて手でボールを押さえるという、誰にでもできることである。
 足で押さえるよりずっと簡単で、しかも確実。そして誰の目にもボールを止めたことがわかる。ほんの一瞬身をかがめて片手でボールを押さえれば、体を伸ばした瞬間にはけることができる。
 ゴール前での「クイックFK」を狙うときには、これが非常に役立つ。かがみ込みながら顔を上げて味方とアイコンタクトすれば、タイミングも合わせやすい。
 「フリーキックのときには手で止める」ことを、日本のサッカーの「型」にするべきだと思う。少年サッカーからJリーグ、もちろん日本代表までだ。そのメリットは小さくないはずだ。
 幼稚園児にでもできるこの行為をせず、動いたままのボールをけってやり直しを命じられるのは、宝物のようなタイミングをみすみす逃す「無精者」だ。「神が宿る」とも言われる「ディテール」をなおざりにしてはならない。

(2016年4月13日) 
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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