サッカーの話をしよう

No.1060 レスターと広島 パニックにならない守備

 イングランドのプレミアリーグで首位を走るレスター・シティの試合を見て、サンフレッチェ広島を思い出した。
 いまイングランドで最も話題になっているクラブが、日本代表FW岡崎慎司が活躍するレスターである。10年ぶりにプレミアリーグに昇格して初年度の昨季は14位に終わったものの、今季はイタリア人のラニエリ監督が就任、開幕から上位をキープして昨年11月に首位に立った。今月は上位チームとの連戦だったが、リバプールに2-0、マンチェスター・シティにはアウェーで3-1と連勝した。
 年間収益は同じプレミアリーグの「ビッグ5」と呼ばれるクラブと比較すると3分の1程度。当然、世界的なスターはいない。だがチーム一丸の攻守と今季大ブレークしたFWバーディーの存在が地味なレスターを主役にした。
 2月14日のアーセナル戦は後半9分に退場で10人になって逆転負け。最後は疲労困憊のなか後半ロスタイムに逆転ゴールを喫したが、その戦いぶりはあらためてレスターの「強さ」を見せつけた。
 固い守備をベースに、カウンター攻撃とともに高度なコンビネーション攻撃をもつレスター。なかでも10人のフィールドプレーヤーのハードワークを基本とする守備は本当に見応えがある。
 広島との共通点は、まさにその守備にある。相手の個人技や鮮やかなパス攻撃で守備が崩されたと思った瞬間、誰かが足を出し、体を張ってシュートをブロックするのだ。
 昨年のJリーグで優勝し、年末のFIFAクラブワールドカップ(FCWC)で3位になったサンフレッチェ広島も攻め込まれる試合が多い。FCWCでは全4試合で相手よりボール支配率が劣った。だがどんなに相手に攻め込まれピンチになっても、広島は最後のところではね返す。シュートの瞬間には、必ず誰かが体を張っているのだ。
 それは「組織的守備」という表現とは少し違う。チームとしての守備が破られたときにも、レスターや広島の選手たちはそれぞれが自分のやるべきことを見失わず、最後までやり遂げようとしている。
 守備組織の破綻は、相手の見事な個人技やパスワークで生み出されるのではない。守備側の選手がそれに一瞬気を取られ、自分のマークを見失ったり、占めるべきポジションをとれなかったとき、すなわち「パニック」に陥ったときに組織が崩れるのだ。
 パニックを生じさせないためにはそこにフォーカスした徹底的な訓練が必要だ。広島とレスターはその力をしっかり自分たちのものとした。好成績には明確な理由がある。

(2016年2月17日) 
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