サッカーの話をしよう

No.1057 GLTも追加副審も

 もうゴール判定に間違いは起こらない?―。
 先週金曜日(1月22日)、欧州サッカー連盟(UEFA)は今夏フランスの10都市で開催される欧州選手権で「ゴールラインテクノロジー(GLT)」を使用すると発表した。
 チップ入りボールや高速度ビデオカメラなどの科学技術を駆使し、ボールがゴール内のゴールラインを完全に越えたかどうかを瞬時に判定して主審に伝えるGLT。国際サッカー連盟(FIFA)が2013年に正式採用し、イングランドのプレミアリーグなどが追随した。
 スピードが増し、瞬く間に攻守が入れ替わる現代のサッカー。主審1人と副審2人、計3人の審判員で行う伝統の判定法が限界にきているのは明らかだった。FIFAは早くからGLT導入を検討、ようやく信頼性の高いシステムが完成したのが2013年だった。
 ところが世界最大のサッカー勢力であるUEFAは採用を見送った。「判定はあくまで人間の力で行うべき」というプラティニ会長の強い意向によるものだった。そしてこちらも長年研究してきた「追加副審」をFIFAに認めさせ、2013年以来、主催大会で使い始めた。
 タッチライン際でオフサイドなどを監視する従来の副審2人に加え、両ゴール裏に立ってペナルティーエリアを中心に監視して主審にアドバイスする2人の副審。UEFAチャンピオンズリーグを筆頭に世界のいくつかのリーグで採用されて好評だ。Jリーグでも村井満チェアマンが導入を熱望しているという。
 しかしどちらのシステムにも長短はある。「万能」に思えるGLTだが、マラドーナの「神の手」(ハンドでの得点)はゴールと認めてしまうだろう。ゴールラインを越えたか越えないかの判定に特化したシステムだからだ。一方の追加副審も、交錯する選手に視線をさえぎられるとゴールラインを越えたかどうか判定が難しい状況が生まれる。
 今回、UEFAがGLTを採用した背景には、プラティニ会長の失脚がある。だがそれ以上に注目すべきは「両者併用」にしたことだ。UEFAは新たにGLTを導入するとともに、熟成度を増してきた追加副審も残す。「GLTか追加副審か」ではなく、両方とも使ってとにかく正確な判定を期そうというのだ。
 「追加副審がゴールラインを見ようとすると重大なファウルを見逃すおそれがある。GLTの採用で、追加副審はプレー自体の監視に集中することができる」(UEFAのコリーナ審判部長)
 今秋からのUEFAチャンピオンズリーグでも採用される「両システム併用」。成果に注目したい。

(2016年1月27日)
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