サッカーの話をしよう

No.989 ピッチはベッドではない

 Jリーグは2012年に「プラスクオリティープロジェクト」を始めた。「フェアで、クリーンで、スピーディで、タフな」試合の実現を目指すという。
 その大きな柱が、遅延行為やレフェリーに対する異議をなくし、1試合のなかで実際にプレーが動いている時間(アクチュアルプレーイングタイム)を伸ばすことだ。このプロジェクトが始まる前には徐々にこの数字が落ち、2011年には54分39秒となっていた。
 スタートから3シーズン。現在発表されているJ1第19節までの平均は57分01秒。昨年より1分18秒もの伸びを示している。
 だが実際に試合を見ている感覚は、この数字とずいぶん違う。異議も遅延行為も相変わらず多い。
 それらの理由で警告が出るケースは減ったかもしれない。だがそれはチーム側の努力というより、レフェリー側がカードを出さなくなった結果のように感じる。
 何よりもまったく減らないと思うのが、接触プレーの後、倒れたまま起き上がらない選手たちだ。
 脳振とうや骨折、ひざ靱帯(じんたい)の負傷など、立てないケースもある。しかし相手の手が顔に当たったぐらいで、プレーが続いているのにピッチに寝転がったままの選手というのは、まったく理解ができない。
 ファウルがあって選手が倒れる。だがボールはファウルを受けた側のチームの選手に渡り、レフェリーはプレーを続けさせる。しばらくしてプレーが止まっても選手は倒れたまま。レフェリーが試合を止めて駆け寄り、大丈夫かと聞くと、「なぜ相手を警告にしないのか」と叫ぶ。寝転んでいたのは立てないからではなく、相手のファウルがイエローカードに値するとアピールするためだったのだ。
 ファウルを受けた瞬間には痛くても、サッカー選手ならそれが大けがかどうかなど、すぐにわかるはず。大けがでなければできるだけ早く立ち、プレーに復帰しようとするのが彼の責務ではないか。
 こうしたシーンが1試合に5回も6回もあるのが現在のJリーグだ。そのたびに時間は浪費されていく。
 アクチュアルタイムが伸びているのは、レフェリーがこうして浪費された時間をしっかりカウントし、「アディショナルタイム」として追加しているからにほかならない。
 時間は補塡(ほてん)されても、試合をぶつ切りにされ、寝転がったままの選手たちにいらいらさせられる思いが消えるわけではない。

(2014年8月20日) 
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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