サッカーの話をしよう

No.956 ガンバ大阪新時代の予感

 ガンバ大阪のJ1昇格が決まった。
 雨の11月3日、午後1時からホームの万博記念競技場で行われた試合でG大阪は熊本に4-0で快勝。その夜神戸と京都が0-0で引き分けたことで、「自動昇格圏」の2位以上が確定したのだ。
 長谷川健太監督を迎えて今季のJ2に臨んだG大阪。開幕直後の3月は勝ちきれずに苦しんだ。5節まで1勝4分け、8位。中心選手のMF遠藤保仁とDF今野泰幸が日本代表で抜けた2試合は、ともに引き分けだった。
 しかし第8節に山形に1-0で勝って2位に浮上すると、以後の大半は自動昇格圏をキープ。6月に遠藤と今野が5試合も抜けた期間があったが、4勝1分けで乗り切った。
 8月末から10月上旬まで6試合で1勝2分け3敗という時期もあった。だが長谷川監督は「攻撃の形は非常に良くなってきている」と動じなかった。選手たちへの信頼は、その後の3連勝、12得点2失点の好結果となって結実した。7月にドイツから2年ぶりに復帰したFW宇佐美貴史のコンスタントな得点力も大きかった。
 「このメンバーでJ2なら優勝して当然」と開幕前から言われたG大阪。その評価が相手に守備を固めさせ、試合を難しくさせた。
 しかしシーズン後半になると吹っ切れたようにG大阪らしい攻撃が出るようになった。昇格を決めた熊本戦の先制点は、FWとしてプレーした遠藤の闘志あふれるダイビングヘッド。華麗なパスワークを売りものにしていた昨年までにはなかった形のゴールだった。
 J1復帰はG大阪の新時代を予感させる。4万人収容の新スタジアムが2015年秋に誕生する予定だからだ。
 ことし12月に起工、再来年の10月に完成の予定。総工費140億円の8割を企業や個人からの募金でまかなう建設計画は日本で初めての形。「自治体が税金で建設するスポーツ施設」ではなく、「サッカークラブが主体でつくるサッカースタジアム」。それは日本サッカーの新しい「夢の劇場」となるだろう。
 J2降格でチームは結束し、9カ月間休みなく続く厳しいJ2に真っ正面から取り組んだことでG大阪はこれまでにないものを獲得した。来年のいまごろ、G大阪がJ1の優勝争いに加わっている可能性は十分にある。
 降格がつらくなかったわけがない。しかしG大阪は逆にそれをバネとした。この1年間が、このクラブに新たな黄金時代をもたらす重要な要素になるようにさえ思えるのだ。

(2013年11月6日) 
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