サッカーの話をしよう

No.930 大型映像装置映像の偏りに疑問

 以前からとても気になっていることがある。Jリーグのスタジアムの大型スクリーンに出される映像の極端な偏りだ。
 Jリーグが今年度実施しているスタジアム検査要項では、「大型映像装置」は必須項目にははいっていない。J1では設置することが望ましいということになっているが、J2では「メンバー掲示可能な電光掲示板」が、それも「設置が望ましい」ことになっているだけなのだ。
 だが実際には、J1とJ2合わせて40クラブのホームスタジアムのうち、現時点で大型映像装置がないのは4施設に過ぎない。そしてそれも、数年のうちにはスタジアムの新設や改修で設置されることになるという。
 ところがその大型映像装置がおかしな使われ方をしているように思えてならないのだ。ホームチームのチャンスや得点シーンは繰り返し出されるのだが、アウェーチームのチャンスは出さず、なかには得点シーンさえ映さないという徹底したクラブもある。
 決定的なチャンスや得点シーンのリプレーはスタンドにいる誰もが見たいと思うもの。違った角度からの映像で、思いがけないものを見いだすことも少なくない。大型映像でのリプレーは、いまやサッカー観戦の楽しみの一部と言っていい。
 スタンドの大半を埋めているのはホームチームのファンやサポーター。その「大半」を喜ばせ、試合を盛り上げようというのが、それぞれのクラブの運営の考えなのだろう。いわば「ファンサービス」というわけだ。
 しかしスタンドにいるのはホームチームのファンだけではない。アウェーチームのファン、そしてハイレベルのサッカーを楽しみたいという「純粋サッカーファン」も、数は多くないかもしれないが確実に存在する。そしてその「少数派」も、間違いなく安くない入場料を払っている。ホームチームの映像しか出さないのは、不当な差別ではないか。
 試合前の大型映像装置には、フェアプレーをアピールする映像が流れ、両チームは出場する全選手が自らサインしたフェアプレー旗を先頭に入場する。その一方で、大型映像装置に流れる映像だけがフェアでないのはどういうわけだろう。
 大型映像装置のなかではアウェーチームのチャンスなどなかったかのように装う試合運営では、ホームとアウェーのサポーター同士が声援を競いながらともに心からサッカーを楽しむ文化など、生まれようもない。

(2013年5月8日) 
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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