サッカーの話をしよう

No.875 ファンとの約束を守れ

 「選手の皆さん、監督、審判の皆さんと一丸となって、異議・遅延行為の撲滅を実現していきます」(3月2日、Jリーグキックオフカンファレンスで、大東和美チェアマン)
 昨年Jリーグは観客数が激減、J1で前年比14%減もの1試合1万5797人だった。3年連続の減少。危機感のなか、試合の質を高めるための取り組みとして「選手憲章」が制定された。
 「判定に対して異議を唱えません」「遅延行為を行いません」などの文言が記され、そこに全選手がサインしている。ファンに対する「誓約書」のようなものだと思う。
 サッカーは90分間の競技だが、ボールが外に出たり、反則後にFKで再開されるまでの時間などでプレーが止まり、それが意外に長い。実際に動いている時間(アクチュアルタイム)は、昨年のJ1で54.39分だった。
 09年には56.08分だったものが、2年連続で減った。それが、判定に対する異議や、意図的に時間を浪費する遅延行為の増加と関連していると判断された。J1の306試合で異議による警告(イエローカード)が09年の55回から11年には71回に、遅延行為による警告も76回から82回へと増えている。
 ではその誓約は守られているのか。3月4日のJ2第1節、10日と11日のJ1第1節、J2第2節の計31試合を調べてみた。
 残念ながら、結果は「否」だった。31試合で異議による警告は5回、遅延行為による警告も10回あった。1試合あたり0.16回と0.32回。昨年の数字(0.20回と0.29回)とほぼ同じ数字だったのだ。少なくとも開幕後数節は顕著な減少傾向が見られるのではないかとの期待は、大きく裏切られた。
 自らがサインしたファンとの約束を選手たちは何と考えているのだろうか。単なる儀式だったのか。「撲滅」はかけ声だけなのか。
 手遅れにならないうちに、Jリーグは異議と遅延で警告者を出した14クラブに警告を発するべきだ。そして何より、それぞれのクラブが「憲章」の重さを再確認するべきだ。
 チームの取り組み次第でいくらでもイエローカードを減らせることは、2試合で1人も警告者を出していないJ2の町田ゼルビアを見れば明らかだ。アルディレス監督は清水や横浜FMでもフェアプレーを貫く指導を徹底していたが、町田でもその哲学を見事に実践している。
 
(2012年3月14日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

アーカイブ

1993年の記事

→4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1994年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1995年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1996年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1997年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1998年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1999年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2000年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2001年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2002年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2003年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2004年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →9月 →10月 →11月 →12月

2005年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2006年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2007年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2008年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2009年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2010年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2011年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2012年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2013年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2014年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2015年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2016年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2017年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2018年の記事

→1月 →2月 →3月