サッカーの話をしよう

No.802 真夏の大会再考を

 きょう9月8日は旧暦では8月1日。古い言葉で「八朔(はっさく)」という。早生のイネが実り始める時期にあたり、米作を生活の基本とする日本社会では古来いろいろな行事が行われてきた。
 また八朔は、豊臣秀吉から関東地方を与えられた徳川家康が1万人の軍団を率いて江戸に入城した日(1590年)としても知られている。その日の江戸は、秋の長雨にたたられ、肌寒い日だったと言われている。
 ところがどうだろう。それから420年後の八朔は、凶暴なまでの暑さのさなか。数日前、昼すぎにキックオフされた試合を取材したが、あまりの日差しの強さに危険な感じさえ受けた。
 ことしだけではない。ここ十数年、日本の夏は毎年暑く、そして長くなっている。四季の変化はあるものの、日本の夏が「熱帯級」になってきたことは間違いない。
 だが文字どおり炎のような太陽の下、相変わらず数多くの大会が開催されている。そして当然の帰結として、熱中症で倒れるプレーヤーが跡を絶たない。プレーヤーだけではない。レフェリーも応援の人々も、危険と紙一重のところでスポーツとかかわっている。
 日本の夏はサッカーに適した時期とは言い難い。少なくとも炎天下での試合は避けるべきだ。ところが日本サッカー協会自体が、真夏の大会を、しかも小学生から高校生年代の大会を数多く主催している。事故が起こらないよういろいろ工夫しているのだろうが、根本的に危険を回避するには、炎天下の試合をなくす以外にない。
 この時期に大会を行うなら、専門家の意見を聞き、たとえば日没2時間前以前のキックオフはしないなどの指針を示すべきではないか。きょうの東京の日没はちょうど午後6時。試合をするなら午後4時以降ということだ。これなら熱中症の危険性は小さくなる。
 必然的に多くの試合が夜間開催となる。照明設備が必要なうえに電力費もかかる。グラウンドを所有している自治体などにお願いしなければならないが、粘り強く必要性を説いて理解してもらうしかない。場合によっては簡易照明装置の開発や臨時照明装置のレンタルなど、技術的なサポートも必要になるかもしれない。
 大会実施可能な日程の少なさを含め、いくつも難しい問題はあるだろう。しかし「プレーヤーズ・ファースト(選手第一)」の原則に立てば、結論は自ずから明らかなはずだ。
 
(2010年9月8日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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