サッカーの話をしよう

No.797 今日的カウンターアタック

 1970年代半ばにイタリアのユベントスの試合を見て驚いた。攻撃はほとんどFW2人だけ。だがそれでもシュートまでもっていってしまったからだ。
 当時のイタリアはカテナチオという守備偏重戦術の全盛期。7、8人で守備を固めてどう攻めるのかと疑問だったのだが、ユベントスを見てようやく納得がいった。特別な速さと技術をもった2人のFWでカウンターアタックを仕掛けるのだ。
 カウンターアタックは35年後の今日も非常に重要な攻撃戦術だ。ワールドカップではドイツが有効に使って好成績を残した。ただし今日のカウンターは70年代とはずいぶん違うのだが、そうしたプレーを身に付けていないチームが日本には意外に多い。一因はこの種の攻撃についてのイメージが明確になっていないことにある。
 カウンターというと相手DFの背後にロングボールを送って味方に走り込ませるという印象をもつ人が少なくない。このような攻撃が実を結ぶ可能性は極めて低い。パスは1本か2本というイメージも、今日的ではない。
 自陣ペナルティーエリア近辺からのカウンターを考えてみよう。
 第1の要素はスピードである。ドリブルで進むにしろパスをつなぐにしろ、相手ゴールに向かって突き進む速さが必要だ。
 ドリブルでは細かなボールタッチは不要。ワンタッチで10メートル近くボールを送り出し、それを全速で追う「ランウイズザボール」という技術を使う。
 受け手のスピードを落とさせないパス、パスを受けた選手がスピードを落とさないことも、忘れられがちだが非常に重要だ。
 第2の要素は攻撃に投入する人数である。35年前のユベントスのように2人では今日の守備は崩せない。3人目、4人目、できれば5人目も遅れずに駆け上がる必要がある。
 そしてカウンターの決め手が「相手を引きつける走り」だ。相手ペナルティーエリア近くで、最も前を走る選手が角度をつけた走りをしてDFを引きつける。そしてできたスペースに次の選手が走り込み、パスを受けて決定的な形にもち込む。
 ラストパスがサイドから入れられるなら、ゴール前には少なくとも2人が走り込まれなければならない。
 きれいにカウンターが決まると、パスは4、5本つながり、最終的には何人もの選手が相手ペナルティーエリアに侵入している。今日のカウンターの最大の特徴は、個人ではなく、集団で行うプレーだということだ。
 
(2010年8月4日)
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