サッカーの話をしよう

No.791 ワールドカップに臨むチーム西村

 「誠心誠意、心をこめて試合を担当する」(西村雄一主審)
 「メード・イン・ジャパンの機械のように正確な判定をしたい」(相樂亨副審)
 「韓国レフェリーの名誉のために全力を尽くす」(鄭解相副審)
 5月22日夜、ワールドカップ南アフリカ大会に出場する3人の審判員のトークショーが東京都内で開かれた。解説でおなじみの金田喜稔さんの軽妙で情熱的な司会で楽しい話が続き、会場が沸いた。
 今回のワールドカップには、30組、90人の審判員が指名されている。基本的に同じ国あるいは同じ言語を話す主審1人と副審2人が「チーム」をつくり、試合の担当をする。06年大会からの形だ。そのうちの1組に、西村主審(38)、相樂副審(33)、鄭解相(チョン・ヘサン)副審(38)のトリオが選ばれた。3人とも審判員を職業とする「プロ」だ。
 日韓の審判員がチームを組むのは、06年大会の上川徹主審、廣嶋禎数副審、そして金大英(キム・デヨン)副審と同じ。このトリオは運動量と正確な判定で評価を受け、3位決定戦を含む3つもの試合を任された。それだけに「チーム西村」にかかる期待も大きい。
 しかし西村主審はこう話す。
 「1次リーグの1試合が決勝戦のつもり」
 ワールドカップでは決勝戦を担当する審判がナンバーワンというわけではない。決勝戦に出場する強豪国の審判には、絶対にそのチャンスはないからだ。
 06年大会のように、日本と韓国がともに1次リーグで敗退すればチャンスが広がる。逆に勝ち進めば、「チーム西村」は大会途中で「お役ご免」となる可能性が高くなる。
 「でも、私たちが審判をしているのは、日本のサッカーを良くしたいという思いから。チームが勝って自分たちが帰国するなら、こんなにうれしいことはない」(西村主審)
 強いリーダーシップを感じさせる西村主審。明るい性格の相樂副審。そして穏やかな笑顔を絶やさない鄭副審。07年に韓国で開催された17歳以下のワールドカップで初めてトリオを組んで3年。3人は互いを理解し合い、尊敬し合い、そして励まし合って国際舞台の経験を積んできた。
 ワールドカップ2回目の上川主審を中心に重厚感を感じさせた前回のトリオと比較すると、30代で固めた「チーム西村」はより前向きで、「プロ世代」の明るさを感じさせる。日韓両チームとともに、3人の審判員の奮闘にも期待したい。


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左から西村雄一主審、相樂亨副審、鄭解相副審。
 
(2010年5月26日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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