サッカーの話をしよう

No.713 アジアのサッカーを守る責任

 来年、Jリーグとアジアの関係が大きく変わる。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)に4チーム出場し、「アジアでの戦い」が増えるだけではない。これまで「3人」に制限されていた外国籍選手の出場が、アジアサッカー連盟(AFC)加盟国の選手に限って「4人目」が許されることになるのだ。
 「⑴チーム内の競争激化によるレベルアップ。⑵アジアでの放映権販売やマーケティング活動の推進。⑶アジア全体の国際交流への貢献」
 新制度について、Jリーグの鬼武健二チェアマンはこの3点の狙いがあると説明する。
 私は、原則的にはこの「AFC枠」に大賛成だ。Jリーグはアジアで最も組織的に運営されているプロリーグであり、今晩第1戦が行われるACL準々決勝出場の8チーム中3チームがJリーグ勢で占められていることでもそのレベルの高さは証明済みだ。アジアの選手たちに門戸を開放すれば、国際交流だけでなく、アジア全体のサッカーの発展に大きく寄与するだろう。
 だが、放映権販売やマーケティングについては慎重に取り扱う必要があると思う。
 いま世界のサッカーはヨーロッパに席巻されている。イングランドを中心とした西欧各国のリーグやUEFAチャンピオンズリーグの放映権が世界中に販売され、地元のリーグをしのぐ人気を集めている。華やかでハイレベルなサッカーにファンが熱狂するのは当然のことだが、それによって各国の国内リーグが深刻なダメージを受けている現実は大きな問題だ。
 その傾向が最も強いのがアジアだ。中国や東南アジアでは、国内リーグの人気が低迷するなか、マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナのレプリカシャツを着て街を歩く若者が驚くほど多い。アジア全体をマーケットにというJリーグの狙いのひとつは、ヨーロッパのように他国のマーケット(ファン)を奪い、その国のプロリーグの健全な発展を妨げる要因になる危険性をはらんでいる。
 放映権の販売自体は悪いことではない。しかし「売る一方」ではだめだ。同時に相手国リーグの放映権を買う契約も結び、日本国内でも定期的に放映するようにしたらどうか。アジアのサッカーのリーダーを自任し、「アジア全体の国際交流」をうたうからには、アジア各国の国内サッカーを守る義務もある。何よりも、Jリーグのマーケットは日本国内であるはずだ。
 
(2008年9月17日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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