サッカーの話をしよう

No.702 苦手なスローイン

 日本代表にワールドカップアジア3次予選突破をもたらしたのは「リスタート(反則などでプレーが止まった後の試合再開方法)」だった。
 2月のタイ戦はMF遠藤の直接FK(フリーキック)で先制し、6月にはオマーン戦、タイ戦でCK(コーナーキック)から次々と得点が生まれた。オマーンとのアウェーゲームでは遠藤がPK(ペナルティーキック)で同点ゴールをもたらした。いまやリスタートは日本のお家芸だ。
 いや、ひとつだけ苦手なリスタートがあった。ボールがタッチラインを割ったときに行うスローインだ。
 G大阪のようにスローインを苦にしないチームがある一方で、多くのJリーグ・チームがぎこちないスローインを繰り返している。どこに投げるか迷っているシーンが多いのだ。日本代表も、ボールを受けた選手が個人テクニックで切り抜けられる試合ならいいが、大きな体の相手に厳しくマークされるととたんに苦しくなる。
 1試合のスローインは、1チームあたり20~30本になる。それに対しパスの数は400~500本。スローインも一種のパスと考えれば、無視できない数であることがわかる。
 うまくいかないチームに共通する特徴のひとつに、投げる選手が特定されていることがある。サイドバックやウイングバックなどサイドの後方の選手が専門的に投げるのだ。
 ボールが出てから「専門家」が行くまでに時間がかかる。その間に相手はしっかりマークしてしまっているから、投げるところがなくなる。迷い、迷い、結局、最後尾のDFまで下げることになる。
 うまいチームはボールが出た近くにいる選手がすぐに投げ、プレーをつなげていく。ヨーロッパのチームはほとんどこのタイプだ。
 タッチラインの外にボールが出て試合が止まった状態から再開させるのだから、スローインも「リスタート」の一種と考えて間違いない。だがむしろ「すばやく投げて自然にプレーを続ける」と考えたほうがうまくいく。
 スローインを投げ迷っていると「時間の浪費」でイエローカードを出される危険性がある。昔、こうした形でイエローカードを受けたのにまた迷い、あっという間に2枚目を出されて退場になってしまった選手がいた。
 GKを除けばサッカーで唯一手を使うことができるスローイン。だからといって使い方を考えないと、勝利は遠のいてしまう。
 
(2008年6月18日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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