サッカーの話をしよう

No.665 球際の弱さを克服するには

 北京オリンピックを目指す男子の予選は11月まで続くが、女子ワールドカップ(中国)でのなでしこジャパンの敗退で「日本代表の長い夏」が終わった。
 7月1日に初戦のスコットランド戦が行われたU−20ワールドカップ(カナダ)を皮切りに、男子代表のアジアカップ(東南アジア4カ国)、オリンピックの男子最終予選、U−17ワールドカップ(韓国)、さらになでしこジャパンの女子ワールドカップと、わずか2カ月半の間に5つもの「日本代表」が重要な大会を戦った。

 大きなタイトルや世界がびっくりするような結果は得られなかったが、どの代表もよくがんばったと思う。5つの代表の総試合数は29。通算成績は14勝10分け5敗。このうちアジアのチームが相手の試合は13で、7勝5分け1敗、アジア以外の相手には16試合戦って7勝5分け4敗という成績だった。
 これだけ集中的、連続的に各種「日本代表」の試合を見ていると、共通する長所とともに短所もよく見えてくる。その短所のひとつが攻撃時の「球際」の弱さだ。
 相手ゴールに向かうパスがなかなか通らない。相手がスライディングしながらでもカットしようとするからだ。味方に渡っても、体を寄せられ、足を出されてはじき出されてしまう。ようやくボールをもってドリブルで抜こうとすると、相手の逆を取ったと思った瞬間にどこからか足が出てきてストップされる。

 この2カ月半、どの代表チームも同じようなことで苦しんだ。相手がアジアでもヨーロッパでも、状況はあまり変わらなかったように思う。
 こうしたことに苦しむのは、日本国内の試合の守備が甘いからだ。パスをインターセプトしようという意識に乏しい。パスが渡ってしまったら、無理して取ろうとはせず、「ウェイティング」に徹してくれる。ドリブルに対しても、なんとか足に当ててボールを奪おうというより、抜き去られまいと、ついていくだけだ。
 このような守備に対していたら、攻撃側も甘くなってしまう。パスも通るし、コントロールも簡単だ。そしてドリブルを始めれば思うように相手を振り回すことができる。日本代表のオーストリア遠征から帰ってきて、週末のJリーグの試合を生とテレビで何試合か見た。そこでは、まさにこうした「甘い攻防」が行われていた。

 守備の目的が、何よりも相手からボールを「奪い返す」ことであることを、もっと強く意識しなければならないのではないだろうか。現在の日本の試合の守備は、それよりも「相手のミスを待つ」ことに偏っているのではないか。
 世界で戦うには、1対1で果敢に突破できるアタッカーが必要だ。激しい当たりにも耐えられる「球際」に強い選手を生み出すためには、国内の試合で、相手からボールを奪おうとするどう猛なまでの守備が不可欠だ。
 攻撃の強化は、守備の強化と表裏一体をなすものだ。
 
(2007年9月19日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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