サッカーの話をしよう

No.617 ジャニーズ系サッカー

 「ジャニーズ系サッカー」。ひと目見たとき、そんな言葉が浮かんできた。
 シンガポールで行われたアジア予選で世界大会(U−17ワールドカップ)出場を決めただけでなく、12年ぶりにアジアで優勝を飾った16歳以下の日本代表である。
 髪形や顔の話ではない(そのままステージに乗せて踊らせても通じそうな選手もいるが...)。プレーの雰囲気が、これまでの日本のサッカーとは少し違う感じがしたのだ。
 来年の8月18日から9月9日まで韓国で開催されるU−17ワールドカップ。FIFA主催の年齢制限大会のひとつで、出場資格は1990年以降生まれ。すなわち、シンガポールで開催されていたアジア予選で優勝を飾ったのは、「平成生まれの日本代表」ということになる。

 この大会、日本は1次リーグでネパールに6−0、シンガポールと1−1、韓国に3−2で粘り勝ってグループAを首位で突破した。世界大会の出場がかかった準々決勝ではイランを1−1からPK戦8−7という接戦で下し、6年ぶりの出場権を獲得した。
 準決勝ではシリアに2−0で快勝。決勝戦では北朝鮮に前半0−2とリードされたものの、後半にはいってからの攻撃がすごかった。11分にMF柿谷曜一郎(C大阪)が見事な個人技で1点を返すと、32分には柿谷のパスを受けたMF端戸仁(横浜FMユース)が同点ゴールを決める。そして延長後半、交代で投入されたばかりのMF河野広貴(東京Vユース)が2点を決めて4−2で逆転勝利をつかんだのだ。
 このアジア予選での日本の優勝は94年カタール大会以来のこと。当時のメンバーには、後に日本代表の中心となってワールドカップなどで活躍する小野伸二、稲本潤一、高原直泰らがいた。そのとき以来の「アジア王者」だけでなく、アジア予選を突破したのも2000年大会以来6年ぶりというから、「新しい黄金世代誕生」と、期待が高まるのも当然だ。

 この上の年代によるU−20では過去6大会連続して世界大会に出場している日本だが、U−17では過去2回しかアジア予選を突破できていない。チームづくりの途中に高校受験がはいり、強化が難しいのだ。
 では、このチームのどこがこれまでの日本のサッカーと違うのか。日本は過去10数年ほどの間に数多くのテクニシャンを生み出してきたが、彼らの多くは、ボールを受けてから技術を発揮するタイプだった。ところが今回のU−16の選手たちは動きながら、それもトップスピードとは言わないまでもかなりのスピードで動きながらパスを受け、同時にパスを出すことができるのだ。
 ジャンプしながらヒールで正確なパスを出すようなことも当たり前に行われ、はずむようなリズムがある。「ジャニーズ系」の印象は、このあたりからきている。「牛若丸系」とも言えるかもしれない。

 彼らの最終目標はU−17ワールドカップではない。2010年か2014年のワールドカップで日本を上位に導く活躍を見せること、そして世界的に認められる名選手になることなど、挑戦の対象は無限にある。
 フィジカル面、技術面など、課題はたくさんある。しかし私は、「本物のチームプレーヤー」になることを挙げたい。安っぽいスター主義、ヒロイズムに流されてはいけない。サッカーの本質は「チームゲーム」であるということを忘れてはならない。才能のある選手たちだからこそ、それをフルに生かすためにも、「チームの勝利のために全力を尽くす選手」になってほしい。
 今回の優勝で、選手たちは間違いなく注目され、スター扱いされる。そのなかで自分自身とサッカーの本質を見失わない者だけが、サッカー選手として自らを完成させることができる。
 
(2006年9月20日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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