サッカーの話をしよう

No.611 シャツをパンツに入れよう

 「日本においては、マナーあるユニホーム着用の観点から、これまでどおり、『シャツの裾をパンツの中に入れてプレーしなければならない』といたします」
 日本サッカー協会から加盟団体やチームにこんな通達が出たのは、7月28日のことだった。
 今回のワールドカップで、シャツをだらりとパンツの上に出したままでプレーしている選手が少なからずいた。そして、それに対しレフェリーが何も注意をしなかった。
 日本サッカー協会だけでなく、国際サッカー連盟(FIFA)も、シャツをパンツの中に入れるよう指導し、これまでの国際大会ではシャツを出している選手にレフェリーから注意が出ていた。それが今回は何の注意もなかったのだから、大会を見ていた日本のレフェリーやプレーヤー、指導者から「ルールが変わったのか」という疑問が噴出するのは当然のことだった。

 ルール(競技規則)には、「シャツをパンツに入れなければならない」と書かれてはいない。こう書いてしまうと、シャツが出た選手はそこで反則になるか、あるいはピッチの外に出されてしまうからだろう。ルールに規定されているのは、「プレーヤーは、シャツとパンツとストッキングとすね当てとシューズを身につけなければならない」ということだけだ。
 ただし、シャツを出しているプレーヤーがいたらレフェリーは注意し、それに従わない場合には、ピッチを出て直すよう命じることはできる。
 しかしワールドカップではレフェリーたちは何のアクションも起こさなかった。ひじ打ちやシャツを引っぱる反則、遅延行為などの「重点チェック項目」を見張るので手いっぱいだったのだろうか。
 しかし日本では、これまでどおり、シャツを中に入れるよう徹底するという。しかしその理由は「マナー」だけなのだろうか。

 私は、ユニホームの重要な機能を保持するために「シャツをパンツの中に入れること」が必要だと考える。
 たとえば、白いシャツ、黒いパンツのドイツ代表を考えてみよう。そのDFラームが、パンツの上にシャツをだらりと出していたら、ユニホームは「白・黒」ではなく、「白・白」になってしまう。これはきわめて不都合だ。
 では、パンツの中にはいっていなくても、パンツがしっかり見えればいいのか。実は日本代表にもワールドカップでは何人かシャツをパンツに入れていない選手がいた。しかしその選手たちのシャツはなぜか短く、パンツははっきりと見えていた。おそらく「特注」したのだろう。
 しかしこれだと、競り合いのときに腹部がむき出しになる。転んだときにそこに相手の靴底が当たったら、負傷の危険がある。ユニホームの機能は、チームを区別することだけではない。不必要な負傷から体を守ることも、重要なその一部なのだ。

 日常生活では、シャツをスラックスの上に出すのは当たり前のファッションとなっている。シャツをパンツの上に出したがる選手は昔からいたが、現代のファッションがさらにそうした風潮を助長している。
 たしかに、シャツをだらりと出しているのは見苦しいと私も思う。しかしそれは個人の感性レベルの話だ。「見た目に良い印象を与えるものではない」(日本協会からの通達文の表現)とマナー面を説くだけでは、プレーヤーたちの「ファッション感覚」を納得させることはできない。
 サッカーのユニホームは普段着ではない。チームを区別すること、プレーヤーの体を保護することなど、競技面での重要な機能と目的がある。それをしっかりと理解させないと、プレーヤーたちは、ただ堅苦しいと思うだけになってしまうだろう。
 
(2006年8月9日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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