サッカーの話をしよう

No.553 フェアプレーの約束

 「2ステージ制」が廃止され、全34節になった今季のJリーグ。小さな変化は、出場停止になる累積警告の数だ。これまでの3回から、今季は4回の警告で1試合出場停止になった。名古屋のDF古賀が、第5節まで4試合連続で警告を受け、先週末の第6節、出場停止になった。本人にとってはうれしくないだろうが、記念すべき第1号である。
 今季第1節は前途多難を思わせた。浦和×鹿島では汚いやり合いがあり、浦和のDFアルパイが鹿島FW鈴木のあごをつかんで退場になった。横浜FM×磐田では、磐田MF福西の手に当たったボールが決勝点になり、日本サッカー協会審判委員会がわざわざ「誤審ではない」と発表して物議をかもし出した。
 しかしその後は大きな事件もなく、今季のJリーグは概してきれいな印象がある。出されたカードの数を調べると、第6節、54試合が終了した時点で、イエローカードは213枚(1試合平均3・94枚)、レッドカードは5枚(同0・09枚)。いずれも昨シーズンの記録(イエロー4・26枚、レッド0・31枚)を下回っている。
 6試合でわずか5枚しかイエローカードを受けていないのがF東京だ。偶然ではなく、カードを減らそうという努力の結果に違いない。長いシーズン、最後には、この努力が大きな力にもなるはずだ。
 リーグ全体のデータを見ると、レフェリーに対する異議で出されたカードがわずか11枚、10試合に1枚というのは特筆に価する。千葉、F東京、東京V、横浜FM、清水、磐田、名古屋、G大阪、広島、大分の10チームは、異議によるカードが1枚もない。「自分のプレーに集中する」というチーム姿勢の表れだろう。
 フェアプレーが浸透してきたJリーグ。ただひとつ残念なのは、それが強くアピールされていないことだ。
 選手入場のとき6人の手にもたれて先頭を切って出てくるのが黄色いフェアプレー旗だ。メインスタンドから見ると、この旗を背負って両チームが整列する形になる。国際サッカー連盟の大会で始まったこの儀式、いまではあまりに日常的に行われているため形骸化し、その意味も忘れられているが、これは両チームがファンに向かって「フェアプレーで戦います」という約束を形にしたものなのだ。
 フェアプレーとは何か、短い言葉で説明するのは難しい。しかしJリーグが始まって13シーズン、いろいろな事件があり、議論のなかでイメージが固まりつつある。「ルールを尊重し、相手を尊重し、レフェリーを尊重する。そして勝利のために全力で戦う」。Jリーグや日本サッカー協会の努力により、そうした骨子が理解されてきている。
 ならば、実際にどのように行動し、プレーするのがフェアなのか----多くの人が注目するJリーグほど、それをアピールできる場はない。もしJリーグ選手たちからの働きかけが日本全国のファンや少年少女のフェアプレー理解の助けになるなら、長期的に見れば、ワールドカップ出場以上の価値がある。
 たとえば、「フェアプレーの約束」のようなチラシをつくり、各チームが試合ごとに全観客に配布してはどうか。「レフェリーの決定に従います」のような項目をいくつか書き、そこに全選手がサインしたものを用意するのに、そう大きな出費はかからないだろう。全選手のサインがあれば、ファンは大事にもって帰り、家に飾ってくれる人もいるだろう。それは、ファンに対する選手たちからの「約束」であると同時に、ファン、なかでも少年少女にフェアプレーを教える働きをする。
 ことしのJリーグがフェアになっていることを強くアピールするとともに、さらに積極的な働きかけを期待したい。
 
(2005年4月20日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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