サッカーの話をしよう

No.551 東京Ⅴと千葉、豊かになったJリーグ

 日曜日に味の素スタジアムに出かけた。Jリーグ第3節、東京ヴェルディ対ジェフ千葉市原の対戦だった。ともに今シーズンになって初めて見るチームだ。
 東京Ⅴは、アルディレス監督の指導が浸透して元日の天皇杯決勝で快勝し、久々のタイトルを手中にした。DF李康珍(韓国U-20代表)、MF小林大、相馬崇人、FW平本一樹らの若手が自信をつけ、今季新加入のブラジル代表FWワシントンの得点力が優勝争いへと引っ張ってくれるのではないかという期待のうちに新シーズンにはいった。
 一方の千葉は、クラブ名に千葉市の名前を入れ、ユニホームもこれまでの黄色と緑から、黄色と紺に一新した。ことし秋には千葉市に新しいスタジアムが完成する。心機一転、大きな飛躍を期す年である。にもかかわらず、日本代表DFの茶野、代表にあと一歩といわれる左サイドのMF村井が磐田に移籍し、外国人選手も総入れ替えになって、不安の残る開幕だった。

 東京Ⅴは、天皇杯で見せたポジティブなサッカーに磨きがかかり、生き生きとしたサッカーを見せた。左ウイングバックの相馬の攻撃力を生かすためにインサイドMFの平野が的確に、そして献身的に動いた。
 平野は、98年ワールドカップに出場したベテランである。ワールドカップ当時は名古屋の所属だった。その後、京都、磐田、神戸と渡り歩いたが、能力を発揮しきれず、2003年に東京Ⅴにやってきた。アルディレス監督は彼を辛抱強く使い、見事に復活させた。
 平野の特徴は、左サイドで鋭く縦に抜けて入れる正確なクロスにある。その役割の主役を若い相馬に譲りつつ、相馬の動いた穴をカバーし、チャンスと見れば自ら得意の左サイドに出て果敢な突破を見せる。開始早々2点をリードされた東京Ⅴが前半のうちに同点にすることができたのは、左サイドを有効に使うことができたからだ。

 東京Ⅴの良さは予想できたが、千葉がこんなに良くなっているとは思わなかった。抜けた外国人選手の穴は、オーストリア、ルーマニア、ブルガリアの代表クラスを補強して埋めたが、左からの攻め上がりでこのチームの攻撃を特徴づけてきた村井の穴は埋めがたいだろうと思っていた。
 しかし昨年まで右ウイングバックでプレーしていた坂本が左に回り、村井とは違ったスタイルながら、それ以上に効果的な動きを見せていたのには驚いた。前半1分、FKをすばやくFWハースにつなぎ、間髪を入れずにサポートして左サイドを突破、FW巻の先制点を演出したのは坂本だった。
 茶野が抜けたDFには水本、坂本が左に回った右サイドには水野の、19歳コンビがはいって見事なプレーを見せた。ふたりとも、6月にオランダで行われるワールドユース選手権での活躍を期待されている伸び盛りの選手だ。

 新外国人のFWハース、DFストヤノフはすでにチームにしっかり溶け込んで中心的な役割を担っている。しかしそれだけでは千葉は戦力を落としていただろう。今季の千葉が昨年にも増して良くなったのは、DF斉藤、MF阿部、佐藤、羽生、FW巻などの選手たちが、例外なく昨年より何パーセントか力を伸ばし、自信をつけ、動きを増やしているからにほかならない。
 それが「チームをつくる」ということなのだろう。オシム監督の手腕に、改めて感心させられた。
 勝敗をめぐって胃が痛くなるようなワールドカップ予選を見た水曜日の週末に、気が晴れ晴れとするような積極的な攻め合いの美しいサッカーを見せてもらえた。日本のサッカーも豊かになったのだとつくづく感じた日曜日。試合は2-2の引き分けだった。
 
(2005年4月6日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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