サッカーの話をしよう

No.519 男子オーバーエージと女子サッカー

 アテネ・オリンピックの開幕まで1カ月を切った。開会式は8月13日だが、試合と試合のインターバルを数日間とらなければならないサッカーは、その2日前の11日に第1戦が行われる。
 男子で話題になっているのが「オーバーエージ枠」の問題だ。オリンピックは「23歳以下」(正確に言えば1981年1月1日以降生まれ)という年齢制限があるが、18人の登録枠中、3人までその制限を超える選手を起用していいというルールだ。
 山本昌邦監督は、GK曽ヶ端準(鹿島)、MF小野伸二(フェイエノールト=オランダ)、FW高原直泰(ハンブルガーSV=ドイツ)の3人を予備登録に入れた。「オーバーエージ」と言っても、3人とも79年生まれで2歳しか違わないのだから、溶け込むのも容易なはずだ。

 ところで、オリンピックの「オーバーエージ枠」が、女子サッカーの発展に大きく関与するという、意外なつながりを知る人は多くはない。
 オリンピックのサッカーで正式にプロの出場が認められたのが1984年ロサンゼルス大会。88年ソウル大会までは、ワールドカップに出場したことのない選手という条件がつけられていた。
 主催の国際オリンピック委員会(IOC)は、一切の制限を取り払い、最高クラスの選手が集う大会にしたいという希望をもっていた。大きな競技場を使って32試合も行うサッカーは、どの大会でも最大の観客動員力がある。世界的なスターが出場すれば、さらに大きな収益が見込めると計算したのだ。
 しかしサッカー競技の運営に当たる国際サッカー連盟(FIFA)は断固反対だった。「ワールドカップはひとつでいい。それは私たちが主催する大会だ」。それがFIFAの立場だった。

 FIFAには、17歳以下と20歳以下という年齢制限を設けた2つの世界選手権があった。そこで、オリンピックを23歳以下の世界選手権と位置づけようと、IOCの反対を無視し、92年バルセロナ大会で新方式を断行した。
 IOCは悲鳴を上げた。この大会は地元スペインが優勝して盛り上がったが、スペインが出場した試合以外は空席が目立った。再び年齢制限の撤廃を求めたが、FIFAは「3人のオーバーエージ枠」という代替案を示した。
 その譲歩の見返りとして、FIFAが求めたのが、オリンピックでの女子サッカーの実施だった。もしかすると「オーバーエージ枠」でスーパースターが出場するかもしれないという誘惑に、IOCは逆らうことができなかった。結局、要求をのんだ。そして96年アトランタ大会から、「オーバーエージ枠」が制度化され、同時に女子サッカーがオリンピックの一員となった。

 91年に第1回女子ワールドカップが開催されて、急速に発展しつつあった女子サッカー。その流れを加速したのは、間違いなくオリンピックの正式種目化だった。もちろん女子には、オリンピックでも男子のような年齢制限は存在しない。オリンピックの金メダルは、女子ワールドカップ優勝と並ぶ「世界チャンピオン」のタイトルなのだ。
 IOCとFIFAは、ことしもドーピング検査の基準をめぐって対立、一時は「オリンピックからサッカーが除外されるかもしれない」との憶測も流れた。しかしサッカーを外したらオリンピックの財政は成り立たない。そしてFIFAにとっても、男子はワールドカップに直結する若手プロの登竜門であり、女子にとっては世界に注目される最高の舞台とあって、オリンピックはいまや不可欠な存在となった。両者の利害が一致して、いまのところ、オリンピックからサッカーが消える可能性は低い。
 
(2004年7月14日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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