サッカーの話をしよう

No.497 エメルソンが日本代表に?

 ワールドカップ、アテネ・オリンピック出場を目指す日本代表とU−23日本代表のキャンプが始まった。
 U−23では、ブラジルから日本に国籍を変えてチーム入りしたDF田中マルクス闘莉王(浦和)の張り切りぶりが伝えられている。その一方で、「浦和のブラジル人FWエメルソンが日本代表入り」といううわさもなかなか消えない。
 エメルソンが日本国籍取得の申請をしたわけではない。しかし昨年10月に国際サッカー連盟(FIFA)が選手の国籍についての基本規程を改めてから、うわさが先行し始めた。
 「ひとつの国の代表になったら、他の国の代表にはなれない」というのが、FIFAの基本的な考え方だ。

 かつては、国籍を変えれば所属する代表も変えられた。しかし醜い引き抜きなどを防ぐため、現在は禁止されている。年齢制限のない「A代表」だけでなく、その下の「年代別代表」で公式戦に出場した場合も同じだった。たとえばフランスのU−17代表で公式戦に出場した選手は、ワールドカップに出るならフランス代表以外にはなかった。
 しかし昨年の改正で例外規定がつくられた。二重国籍をもった選手が、ひとつの国の年代別代表の出場記録があってもA代表での出場歴がなく、21歳の誕生日までに申請すれば、もうひとつの国のA代表でプレーできるというのだ。
 たとえばアフリカのセネガルから両親の仕事のための移住でフランスにやってきた少年が、サッカーで頭角を現し、U−17フランス代表に選ばれたとする。しかし大人になるころに祖国愛に目覚め、セネガル代表になりたいと思っても、旧規定では無理だった。そうした状況を救済し、セネガル代表としてワールドカップに出場する道を開かせてやろうという狙いなのだ。

 原則は21歳の誕生日を迎えるまでの申請だが、現在は経過措置でその年齢を上回る選手にも申請を許可している。「エメルソン日本代表入り」のうわさは、こんなところから出てきたのだ。
 しかしこの規定には、「最初に年代別代表の試合に出場したときに、すでに二重国籍の所持者であること」という文言がはいっている。
 エメルソンは、99年1月にアルゼンチンで開催されたU−20南米選手権にブラジル代表として8試合に出場している。ワールドユース選手権の南米予選を兼ねた大会である。当時はまだ17歳のチーム最年少だったので大半は交代出場(現在磐田のグラウとの交代が多かった)だった。そして翌2000年から日本でのプレーをスタートした。
 この文言を見れば、たとえ今後エメルソンが日本国籍を取得しても、日本代表になれないのは明白のはずだ。

 ところが「うわさ」は消えない。「公式戦とは世界大会だけで、地域予選は含まない」と、強引な解釈をしようとしている人がいるためらしい。今回の規約改訂を生かしてエメルソンを日本代表にしようというのではない。闘莉王と同様、「代表歴のない者」として処理しようというのだ。
 私はそんな解釈をFIFAが認めるわけがないと思っているが、仮にそれが通ってエメルソンが日本代表になれても、素直には喜べない。
 エメルソンは日本代表のために得点を量産してくれるだろう。それは間違いない。だが同時に、来年のワールドカップ・アジア最終予選で相手国の選手たちの顔を見たら、U−20南米選手権で優勝したばかりのブラジル人選手がずらりと並んでいたということになっても不思議ではない。
 FIFAの規約の精神を理解すれば、エメルソンの力を借りて日本代表を強くしようなどという考えがお門違いであることは明らかだ。
 
(2004年1月28日)
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