サッカーの話をしよう

No.496 ミュージアムへ行こう

 東京に新しい「サッカー名所」ができた。「日本サッカーミュージアム」。愛称を「11+(イレブン・プラス)」という。東京駅から中央線で2駅、わずか5分ばかりのJR御茶ノ水駅からゆっくりと歩いて10分、昨年9月から日本サッカー協会がはいっているビルのなかにある。月曜日以外は、毎日開いている。
 1階、地下1階、地下2階の3フロアを使ったミュージアムは、昨年12月にオープンした。まだ1カ月もたたないのに、すでに1万数千人の入場者を記録している。冬休みには、家族連れの入場者が目立ったという。
 1階エントランスホール正面には「世界の壁」と名づけられた白い壁がある。よく見ると、実物大のゴールポストが立てられ、これまでの日本サッカーの重要な得点がゴールのどのへんに決まったか、ボールの絵が貼られ、得点者、試合が示されている。私には、85年ワールドカップ予選で木村和司のFKが決めたポイントが印象的だった。

 この1階と、すぐ下の地下1階が無料ゾーン。地下1階には、2002年ワールドカップまでの招致活動や大会準備の足跡を示した展示があり、日本代表のユニホームなどを扱うショップもある。無料ゾーンだけでも十分楽しめる。
 しかしワールドカップチケットを模した入場券(大人500円、小中学生300円)を買って地下2階に下ると、そこには夢のような世界が展開されている。
 日本サッカーの歴史を展示する部屋には、豊富な写真、カップ、メダルなどとともに、貴重な映像が常時流されており、見飽きない。「トレーニングサイト」と名づけられた部屋では、大型映像装置で有名選手の技術を解析、CGとビデオを同時に見ることで戦術理解を深める装置もある。

 そしてここからこのミュージアムの白眉となる。「ロッカールーム」、「11+」と名づけられた部屋が続く。ワールドカップのロシア戦で使用した横浜国際総合競技場のロッカールームを忠実に再現、代表選手たちのユニホームやシューズが展示されている。
 「11+」の部屋には、日本代表のユニホームを着た11人の選手が円陣を組んだ像が置いてある。周囲の壁はサポーターの写真だ。円陣でただ一カ所空いたポジションに見学者がはいり、隣の選手と肩を組むと...。代表選手たちは、毎試合こんな体験をしているのかと、少しわかる気がする楽しいアトラクションだ。
 まだいくつもの展示があるが、私が印象深かったのは、「フェアプレー」と名づけられた部屋だ。選手入場のときに使われる巨大なフェアプレー旗が天井に広がり、日本のサッカーがこれまでに獲得してきた数多くのフェアプレー賞のトロフィー、ディプロマ(賞状)が展示されている。もちろん2002年に国際サッカー連盟(FIFA)から贈られた「日本のサッカー・コミュニティ」に対するFIFAフェアプレー賞もある。

 「日本のサッカーには、優勝カップは少ないけれど、フェアプレー賞はたくさんあるんです」と、小野沢洋ミュージアム事務局長は話すが、優勝カップなんて、これからいくつでも取ることができる。それ以上に、優勝カップが取れない時代にも、日本がサッカーの精神を体現して正々堂々とプレーしてきたことは大きな誇りだと思う。
 小さなバッジやトロフィー、貴重なユニホーム類など地味な展示にも、先人たちの情熱の跡が感じられ、じっくり見ていたら、あっという間に1日が過ぎてしまいそうだ。
 私自身、これらの展示から触発されるものが多かった。チャンスがあったら、小さな展示物のひとつひとつを取り上げ、その背後にある選手や指導者たちの情熱や苦闘を掘り下げてみたいと思った。
 
(2004年1月21日)
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サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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