サッカーの話をしよう

No.485 判定基準が徹底されたとき

 先週日曜日に東京・国立競技場で行われたJリーグ「横浜対C大阪」で、なんと11枚ものイエローカードが出された。そのうち2枚は横浜のMF佐藤由へのもので、佐藤は前半わずか23分で退場となった。試合は2−2の引き分けだった。
 この日勝てば首位を取り戻せる状況だった横浜にとって、勝ち点を1しか積み重ねられなかったのは悔やまれる結果だっただろう。勝利を逃した最大の要因はもちろん、相手より少ない人数で70分間もの戦いを強いられたことだ。
 主審は奥谷彰男さん。前半7分に佐藤由に最初のイエローカードを出したのを皮切りに、前半だけで6枚。後半の序盤にも立て続けに4枚を出し、一時は「1試合12枚のJリーグ記録の更新は確実」と思われた。しかしその後は1枚出ただけで、計11枚で止まった。

 日本サッカー協会の審判委員会は、J1、J2の審判レベルを上げるために、主審33人を対象に毎月研修会を行っている。
 審判によって判定基準にばらつきがあると、選手たちは混乱する。研修会の目的は、個々の審判のレベルを上げるだけでなく、Jリーグを担当する審判の判定基準をできるだけ合わせていこうという点にある。そしてこの10月に行われた研修会でとくに強調されたのが、遅延行為や異議に対して厳然と対応することだった。
 笛が鳴って反則が取られる。相手ボールのFKだ。しかし味方の守備組織が整う前にけらせないようにと、守備側がボールをちょんとけってしまうプレーが横行してきた。昔のように大きくけってしまう選手はもうほとんどいない。しかし相手がボールを拾おうとした瞬間にほんのわずか触れ、1メートル動かして時間を稼ごうという姑息な手段は、今季のJリーグでごく当たり前に見られてきた。

 「判定に対するあからさまな異議とともに遅延行為に対する主審の態度が、今季は甘かった」と、Jリーグ審判の指導を担当するレスリー・モットラムさんは語る。
 そして「審判員は強くならなければならない」と、10月の研修会ではカードを出すべき行為に対してしっかり出すように求めた。
 各チームにも、「今後はこうしたケースに厳しくイエローカードを出す」と説明した。その話は、当然、選手たちにも伝えられている。
 横浜−C大阪戦では、横浜のマルキーニョス、C大阪の森島、大久保の3選手が、判定に対する異議でイエローカードを受けた。しかし遅延行為によるカードは1枚もなかった。選手たちが気をつけた結果だったのだろう。それがなければ、確実に「12枚」のJリーグ記録が破られたはずだ。

 前日の「市原−磐田戦」では、市原がFKのポイントに戻そうと動かしたボールが自分の前にきた磐田の名波が、途中で止め、イエローカードを出された。名波も、それがカードを出される行為であることは十分承知していたはずだ。しかしこれまでそうした行為を当然のように繰り返してきたため、つい足が出てしまったのだろう。
 横浜−C大阪戦の11枚のイエローカード中6枚は、「ラフプレー」によるものだった。首位奪取をかけた横浜。第2ステージ最下位という不振で西村監督が解任され、塚田新監督が就任して2戦目でどうしても初勝利がほしかったC大阪。リーグ終盤、どのチームも必死だ。勢い余ってラフプレーが増えるのは、ある程度仕方がない。
 しかし遅延行為や異議はプレーではない。こうした行為を撲滅し、プレーに集中して残り4節を全力で戦い、プロらしく誰をも納得させる試合を見せてほしいと思う。
 
(2003年10月29日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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