サッカーの話をしよう

No.453 楽しみなJリーグ開幕

 いよいよ11シーズン目のJリーグ1部(J1)が開幕する。ことしは2月にA3マツダチャンピオンズカップ、3月にはナビスコ杯の予選リーグが行われ、チームはとっくに実戦に突入しているのだが、やはり「リーグ開幕」は格別だ。
 川淵三郎前チェアマンの強力なリーダーシップでプロとして自立への道を歩んできた最初の10年。新しい10年は、鈴木昌チェアマンの下でのスタートだ。Jリーグ自体にも、「延長戦の廃止」という変化がある。
 Jリーグは、スタートの93年から延長戦を行ってきた。勝負がつくまで戦ってファンに納得してもらおうというサービス精神だった。しかし昨年のワールドカップで引き分けの意味も認識されるようになったことで、ことしから90分間が終了して同点の場合には延長戦を行わず、「引き分け」となった。

 どんなスコアでも90間で終了してしまうのだから、終盤10分間のプレーが激しさを増すのは必至だ。上位チームを相手に、引き分けを狙うチームもあるかもしれない。両チームがどんな意図をもって終盤のプレーをしているのかを考えながら観戦すれば、サッカーの奥深さも見えてくる。
 しかし新シーズンを迎えるにあたって最もわくわくさせるのは、やはり各クラブの「変化」だ。
 大分トリニータは初めてJ1昇格だ。4年間在籍したJ2で2回も3位となり、わずかなところで涙をのんできた。ようやく昨年、優勝を飾って昇格を果たした。
 ビッグスターはいない。しかしキャプテンでボランチを務める浮氣哲郎を中心にチームワークは抜群。浮氣と同じように数チームを転々としながらJ2で確固たる地位を築いた攻撃的MF寺川能人を新潟から補強し、チームプレーをレベルアップさせた。

 日本代表を98年ワールドカップ出場に導いた岡田武史監督を迎えた横浜F・マリノスの変化も楽しみだ。
 昨年は年間成績で2位だったが、優勝したジュビロ磐田には遠く及ばなかった。昨年の悩みだった得点力不足の解消を狙って、広島からFW久保竜彦、そして東京ヴェルディでプレーしていたFWマルキーニョスの2人を獲得、持ち前の堅固な守備と合わせて優勝を狙う戦力は整った。
 Jリーグ時代になってから地盤沈下ぎみだった関西地区では、セレッソ大阪がJ2から復帰し、4クラブがそろった。京都サンガが昨年度の天皇杯で初優勝、ことしはJリーグのタイトル獲得への一番乗り争いが展開される。
 そのなかで私が最も期待しているのがガンバ大阪だ。昨年、ジュビロ磐田に次ぐ年間総得点59を記録した高い攻撃力が、さらに強化されたからだ。右アウトサイドMFチキアルセの獲得だ。

 パラグアイ代表として昨年のワールドカップでも1得点を記録し、ブラジルのクラブで「南米最高の右サイドバック」と絶賛されたベテラン。左アウトサイドの新井場徹の突破とクロスが主体だったG大阪の攻撃が、左右バランスの取れたものとなり、長身FWマグロンと、日本でもトップクラスのシュート力を誇るFW吉原宏太がフルに生かされるだろう。
 「変化」は、どのクラブにもある。指揮官が代わり、選手が代わるから、新しい可能性が生まれ、活気あふれるサッカーが展開される。それこそがサッカーの生命力であり、「シーズン開幕」の魅力だ。
 「新しいシーズンは、新しい恋の始まりだ」と語った人がいる。いまは魅力しか見えない相手も、やがて欠点だらけになるかもしれない。しかし、知れば知るほど魅力あふれた相手になる可能性も十分ある。心をときめかせて、スタジアムに向かおう。
 
(2003年3月19日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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