サッカーの話をしよう

No.441 FIFAフェアプレー賞の意味

 ひょっとすると、ノーベル賞の受賞より大変なことかもしれない。
 きのうスペインのマドリードで開催されたFIFAワールド・プレーヤー表彰式で、「日本と韓国のサッカー・コミュニティー」がFIFAフェアプレー賞を受賞した。
 FIFA(国際サッカー連盟)のフェアプレー賞は1988年に制定され、これまでに22の人や団体が、フェアプレーの優れた体現者として表彰されてきた。
 この賞の特徴は、ポイント制で争われるのではなく、FIFA(なかでもブラッター会長)の主観で決められていることだ。それぞれの年にFIFAが「すばらしい」と感じたことを、いわば場当たり的に表彰してきたのだ。
 個人では、自らハンドの反則を認めたドイツのプロ選手フランク・オルデネビッツ(元ジェフ市原)や、現役生活を通じてイエローカードのなかったガリー・リネカー(元名古屋グランパス)などが受賞している。団体では、特定のサッカー協会だけでなく、「ダンディー・ユナイテッドFC(スコットランド)のファン」、「トリニダード・トバゴの観客」など、とても特定できない人びとまで、ひとまとめにして表彰している。
 今回表彰された日韓の「サッカー・コミュニティー」とは、もちろん、ワールドカップ時のもの。しかし両国のサッカー協会やワールドカップ組織委員会といった公的な組織だけでなく、一般の観客、ファンなど、ワールドカップを取り巻いたすべての人びとが対象になっている。
 韓国は、国中を真っ赤に染めた応援ぶりのスペクタクルと楽しさ、そして平和さが強い印象を与えた。
 そして日本は、出場チームを迎えた各キャンプ地の雰囲気、「フーリガン」と心配されたイングランドのサポーターたちまで仲間として取り込んでしまったファン、そして日本が負けた後も、イングランドやブラジルの応援で大会を盛り上げた観客などが、受賞理由に挙げられている。
 忘れてならないのは、日韓ともに温かみのある雰囲気をつくったことだった。大会を総括して、ブラッター会長は「笑顔のワールドカップ」と表現した。世界を幸せな気分にしたという評価だった。
 世界のいくつかの「サッカー先進国」では、サッカーの試合は攻撃性のシンボルであり、ファンは暴動を起こすもの、対戦するチーム同士のサポーターはけんかをするものと相場が決まっている。いわば「性悪説」を前提に、大会運営や警備が行われている。
 ワールドカップ時の日韓両国は、それとは対照的だった。私自身は日本の警備陣の石頭ぶりが気になったこともあったが、全体としては、ファンや観客のマナーを信じ、警官たちでさえ、笑顔でソフトな対応をしていた。「性善説」による大会運営、そして、それでも何の問題も起こらない雰囲気をつくった日韓両国に、世界が大きな感銘を受けたのは当然だった。
 Jリーグの発足以来、平和で楽しさにあふれたスタンドの雰囲気は、世界に誇るものと思ってきた。日本のサッカー自体は世界から学ばなければならないことが多いが、スタンドの雰囲気やファンの行動は、「サッカーの応援や観戦はこうあるべきだ」と、世界に対してメッセージを発するに値するものだ。
 FIFAはワールドカップ時の日本を「ブルー・パラダイス(青い天国)」と表現した。私は、「天国」というより、「エデンの園」に近いものではないかと思う。永遠に続く平和ではなく、まだ「悪」を知らないだけだからだ。
 今回の表彰は、日本の「サッカー・コミュニティー」に、その平和を守る努力を怠ってはならないと求めているように思えてならない。
 
(2002年12月18日)
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