サッカーの話をしよう

No.423 Jリーグの若手は期待以上

 予想以上にいい。期待以上にレベルが高い。ワールドカップ後のJリーグだ。
 猛暑のなか、ワールドカップによる長期中断の後遺症でハードスケジュールが続いているが、どのチームも非常に意欲的で、スピード感あふれる試合が続いている。
 ワールドカップで活躍したMF中田英寿(イタリアのパルマ)、小野伸二(オランダのフェイエノールト)、稲本潤一(イングランドのアーセナルからフラム)、GK川口能活(イングランドのポーツマス)がヨーロッパに戻った。それに加えて、鹿島アントラーズのFW鈴木隆行がベルギーのゲンクへ、横浜F・マリノスの中村俊輔がイタリアのレッジーナに移籍した。
 「スター」が減って、寂しいか。まったく、そんなことはない。胸をわくわくさせるような若手が、「ワールドカップ組」をしのぐ勢いのプレーを見せているからだ。

 その多くは、9月末から10月中旬にかけて韓国の釜山を中心に行われるアジア大会に出場する予定の21歳以下(U−21)日本代表選手たちだ。2004年のアテネ・オリンピックを目指す年代でもある。5月にフランスのツーロンで行われた国際ユース大会(21歳以下の各国代表チームによる大会)に参加し、3位という好成績を収めた。
 その中心は、コンサドーレ札幌の山瀬功治、ジェフ市原の阿部勇樹、サンフレッチェ広島の森崎和幸、FC東京の石川直宏ら多彩なMF陣だ。
 FWでもプレーする山瀬は、高いテクニックとともに、非常にシュートセンスがよく、得点力が高い。ボランチの阿部は、ロングパスが正確で、FK、CKでは大きく曲がるボールで相手を脅かす。阿部とボランチを組む森崎は、正確なミドルシュートが売り物だ。そして右のアウトサイドでプレーする石川は、圧倒的なドリブル突破の能力とシュート力を誇る。

 「U−21」組だけではない。その少し上の年代では、昨年、北京で行われたユニバーシアードで優勝を経験した大学卒業の新人たちが活躍を始めている。浦和レッズのDF坪井慶介、左ウイングバック平川忠亮、そしてジェフ市原の攻撃的MF羽生直剛らだ。物おじしない彼らのプレーからは、高校卒業と同時にJリーグでプロになった「エリート」たちにはない「気迫」が感じられる。
 そして横浜F・マリノスでは、とんでもない「大器」が登場し、大きな注目を集めている。阿部祐大朗。桐蔭学園高校3年に在籍し、来年正月の高校選手権への出場を目指しつつ、日本サッカー協会の「強化指定選手」としてマリノスで練習、試合をすることを認められたFWだ。
 出場停止や負傷でFWが手薄になったマリノスは、7月13日の「再開」第1戦、ベガルタ仙台戦で17歳の阿部をデビューさせた。得点こそなかったが、繊細なボールテクニックとシュートセンスを見せ、スタンドを沸かせた。

 今回ワールドカップを戦った日本代表は非常に若いチームで、大半の選手がちょうど成熟期にさしかかるころに4年後のドイツ大会を迎える。しかし彼らがけっして安泰でないことは、こうした若手の台頭で明らかだ。
 ここに挙げたのは、そうした野心にあふれる若手のごく一部にすぎない。ぜひスタジアムに足を運び、自分自身の目で「2006年への息吹」を感じ取ってほしいと思う。
 この時期のJリーグ観戦には、もうひとつの楽しみがある。「日本の夏」の醍醐味、「夕涼み」だ。夜になっても気温は高いが、スタンドには涼風が吹き、座っているだけで幸福感に浸ることができる。そのうえに若い選手たちの意欲的なプレーが見られるのだから、週末にJリーグに行かない手はない。
 
(2002年7月31日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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