サッカーの話をしよう

No.410 入場券送付方法を危惧する

 「ワールドカップの月」がやってきた。今月31日にはソウルで開幕戦のフランス対セネガルが行われ、それから先は、本当にひと息で決勝戦まで64の試合が日本と韓国で展開されることになる。
 大会のID発行もすでに始まった。あと2週間もすればいくつかのチームが日本に到着してキャンプをスタートし、日本代表メンバー23人も17日に発表される予定だ(そう宣言したのはトルシエ監督だから、あてにはならないが)。
 その5月を迎えて最も心配なのは、入場券の配布が間に合うかという点だ。
 先月、ワールドカップの日本組織委員会(JAWOC)は国内第3次販売の申し込み受け付けと予備抽選を行い、入場券の送付方法も明らかにした。普通の書留郵便ではなく、「本人限定受取郵便」という、これまであまり聞いたことのない送付方法だ。

 JAWOCから入場券が発送されると、各地区で郵便物を配達している郵便局から入場券の受け取り人に「到着通知」が送られる。それを受け取った人は、自分がどの郵便局で受け取りたいかを通知し、身分証明証をもってその郵便局の窓口に行って受け取るという方法である。
 間違いがないように、また、不正がないようにという配慮なのだろうが、これはあまりに行き過ぎではないか。入場券を受け取る人に、あまりに多くの労力を強いるうえに、多くのトラブルが予想されるからだ。
 身分証明には、運転免許証、パスポートなど、写真付きの公的証明書であれば1点、健康保険証など写真の付いていない公的証明書あるいは写真付きの社員証、学生証などであれば2点必要だという。
 委託された郵便局は厳格に業務をこなすだけだから、窓口でトラブルが発生するのではないか。そして不正を意図したわけでないファンが身分証明の不備を理由に受け取りを拒否され、あるいは何かの都合で受け取ることができず、多くの入場券がJAWOCに戻されてしまうのではないか。

 JAWOCのスケジュールでは、入場券の発送開始は5月上旬だという。そして郵便局では、10日間、その郵便物を留め置くというから、受け取ることのできなかった入場券は5月下旬になってJAWOCに戻ることになる。
 それが大量に発生したらどう対処するのだろうか。再度通知して、送付するのだろうか。もし何かの都合で本人が受け取ることができない場合には入場券を受け取る権利がなくなるのだろうか。そしてその代金はどうなるのか。宙に浮いた入場券は?
 入場券販売の時点で、すべての入場者の氏名と生年月日を厳格に登録させられた。そのうえに郵送料までとって代金を先払いさせられたあげく、入場券を受け取ることができず、ワールドカップを見ることができなかったファンはどうなるのだろう。

 4年前、日本の旅行会社が詐欺にあって、ツアーの申し込みをしながら観戦ができなかったファンが大量に出た。悪くすれば、今回は、それ以上の悲劇的な事態に発展する恐れさえ感じる。
 入場券を受け取ることができないままにその試合が終わってしまったら、誰がどんな責任を取ろうと、つぐなうことなど不可能だ。JAWOCはそうしたファンの気持ちをどこまで理解しているのか。
 できるだけ公平に、そして悪質なチケット業者などが介入する危険を避けようとしてきたJAWOCの努力と工夫は、評価できる。しかし最後の入場券送付で無用のトラブルを起こしてしまったら、元も子もない。
 「本人限定受取郵便」などという「屋上、屋を架す」愚は避け、通常の書留郵便、あるいは宅配便で着実に届けるよう努力すべきだと思う。
 
(2002年5月1日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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