サッカーの話をしよう

No.353 シャツを引っ張る行為に新ルール

 楽しみなJリーグ開幕が近づいてきた。今週土曜日、21世紀最初のシーズンが全国でスタートを切る。
 ヴィッセル神戸に活気を与えたカズ(三浦知良)をはじめ、今季のJリーグは活発な移籍が行われ、面目を一新したクラブも少なくない。サッカーくじのスタート、ワールドカップ入場券のサポーター割り当てなど、一気の追い風に乗って、ふたたびJリーグ人気が盛り上がるかもしれない。
 
 その開幕日の10日、スコットランドの首都エジンバラでは、第115回「国際サッカー評議会」年次会議が開催される。毎年いちど、サッカーのルールを討議し、改訂作業を行う会議だ。
 今回は、10のルール改正案がかけられることになっているが、そのなかにウェールズ・サッカー協会の興味深い提案があり、注目されている。
 
 「意図的に相手の体をつかむ、あるいは相手のシャツを引っぱった競技者は、反スポーツ的行為として罰せられなければならない」
 
 このような条項を、ルール第十二条(反則と不正行為)に附属する「国際評議会の決定事項」(ルール本文と同じ拘束力をもつ)の「決定7」として付け加えようというのが、ウェールズ協会の提案である。「反スポーツ的行為として罰する」ということは、すなわち、自動的に警告処分(イエローカード)が出されることを意味している。
 こうした行為は、ルールの第十二条本文の直接FKになる10の反則のなかに「相手を抑える」 (ホールディング)として組み込まれている。この反則で相手のチャンスをつぶそうとしたり、相手に対する報復として使われるなど、悪質と判断されたときには、これまでも「反スポーツ的行為」で罰せられてきた。しかし今回の提案は、意図的に行われた場合には、状況にかかわらず警告にするという厳しいものである。
 現代のサッカーには数多くの醜い、あるいは危険な行為がある。国際評議会は、サッカーの魅力を守るために、過去のルール改正を通じてそうした行為を撲滅しようとしてきた。
 
 98年には、相手選手に危険を及ぼす「背後からのタックル」を退場にする厳しい処罰基準がつくられた(ルール第十二条、国際評議会の決定事項「5」)。昨年のルール改正では、レフェリーをあざむいて利益を得ようとする「シミュレーション」を警告処分にするという条項(同決定事項「6」)が付け加えられた。しかし競り合いのなかで相手の腕や体をつかむ、あるいはシャツを引っぱる行為は、甘く扱われてきた。
 こうした行為は、しばしば非常に巧妙に行われる。レフェリーの目の届かないところで、あるいはレフェリーが反則にとる寸前のところで、選手たちは微妙な「さじ加減」でこうした行為を駆使し、プレーを有利に運ぼうとする。 
 98年ワールドカップ・フランス大会では、アップで高画質のスローリプレーがテレビ中継のなかで使われ、こうした行為の横行が白日の下にさらされた。それは、多くのファンを失望させるものだった。
 日本でも、外国チームに対抗するように、腕をつかむ、シャツを引っぱるなどの行為が行われるようになってきた。コーチのなかには、それを推奨し、わざわざ教えて強要する者までいる。そうしなければ、厳しい試合を勝ち抜いていくことはできないというのだ。
 私は、こうした行為を撲滅しようというウェールズ協会の提案を歓迎する。ぜひとも今回の会議で採用が決定され、ことしから実施に移されることを期待する。そして来年のワールドカップでは、ずっと気持ちのいいサッカーを見たいと思うのだ。

(2001年3月7日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

アーカイブ

1993年の記事

→4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1994年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1995年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1996年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1997年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1998年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1999年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2000年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2001年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2002年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2003年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2004年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →9月 →10月 →11月 →12月

2005年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2006年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2007年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2008年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2009年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2010年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2011年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2012年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2013年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2014年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2015年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2016年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2017年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2018年の記事

→1月 →2月 →3月