サッカーの話をしよう

No.341 ストライカーのメンタリティー

 試合開始後わずか6分間で2ゴールを叩き込み、「世界選抜」のような豪華メンバーを誇るレアル・マドリードを下す原動力となったのは、ボカ・ジュニアーズの大柄なFWマルチン・パレルモだった。
 イタリアのセリエAでは、フィオレンチナからローマへ移籍したガブリエル・バティストゥータが得点を量産してチームの快進撃を支えている。
 アルゼンチン代表は、激戦のワールドカップ南米予選で首位を独走中だ。牽引車は、ともに4ゴールを記録しているバティストゥータとエルナン・クレスポの「核弾頭コンビ」だ。
 2000年の世界サッカーは、アルゼンチン人ストライカーの活躍が目立った。いま、アルゼンチンは、世界で最もストライカーが豊富な国だろう。エースのバティストゥータが負傷でワールドカップ予選を欠場しても、代わりに出場した選手が堂々とゴールを決めてみせる。

 他の国ではこうはいかない。国際サッカー連盟(FIFA)の「ワールドランキング」首位のブラジルでさえ、エースのロナウドが負傷すると信頼できるストライカーを探すことができず、結局は34歳のロマリオを引っぱり出すしかなかった。
 なぜアルゼンチン・サッカーには、「ストライカーの水脈」が豊かなのだろうか。トヨタカップでのパレルモの活躍を見ながら、そんなことを考えた。
 「オフザボールの動きが違う」。ある日本人コーチは、ワールドカップのシュートシーンをビデオ分析して、このような結論を出した。バティストゥータは、自分のところにパスがくる前に複雑な動きをしてマークするDFの視野から外れ、「オンザボール」すなわちボールが自分のところにきたときには、常に有利な状況にしているというのだ。
 非常に重要なポイントだと思う。しかし、何人ものストライカーを見ていると、それだけでは説明できないように思える。アルゼンチンのストライカーたちに共通しているのは、メンタル面の強さではないか。

 点を取るということに関し、彼らは強烈な目的意識をもっている。いったんピッチにはいると、彼らが考えているのは、自分自身で相手ゴールにボールを叩き込むことだけに違いない。極端にいえば、相手チームが攻め込んでシュートを打とうとしているときにも、彼らは、次にどこでボールをもらってどう突破してシュートを打つか考えているのではないか。
 2000年はまた、日本のストライカーが成長した年でもあった。城彰二がスペインで2得点を挙げ、西沢明訓がフランスから輝かしいゴールを奪ってスペイン移籍を決め、高原直泰はオリンピックとアジアカップで得点を重ねてエースの座を築いた。柳沢敦も着実に成長し、北島秀朗はたくましさを増した。
 しかしそれでも、アルゼンチン選手たちのもつ強烈な「ストライカーのメンタリティー」には、まだまだ及ばないように思える。もっともっと、ゴールへゴールへと向かっていく姿勢がほしい。外しても防がれても、へこたれずにゴールを狙い続けるタフさがほしい。

 トヨタカップで2点を決めたパレルモは、昨年、1試合でなんと3本ものPKを失敗したことがある。コパアメリカのコロンビア戦。1本目はバーに当て、2本目はバーを越した。そして試合終了間際にこの日3本目のPKを得ると、驚いたことに彼はまたも自らけり、さらに驚いたことにこんどはGKにセーブされたのである。
 試合は0−3の負けだった。当然、サポーターは彼に非難の口笛を浴びせたが、彼は悪びれた様子も見せず、手を振って更衣室にはいっていった。これこそ、「ストライカーのメンタリティー」なのだろう。

(2000年12月6日)
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