サッカーの話をしよう

No.337 マンチェスター・ユナイテッドとナイキの契約

 イングランドの超人気クラブ、マンチェスター・ユナイテッドが、2002年から始まる新しいユニホーム契約をナイキと結んだことが話題となっている。
 ナイキは、ブラジルをはじめとした数多くのナショナル・チーム、そしてスペインのFCバルセロナなどの人気クラブと契約してユニホームなどを提供している。しかしユナイテッドとの契約はまったく破格のものだった。13年間で約3億ポンド。日本円にして500億円にのぼろうという数字なのだ。
 ナイキは97年にブラジルと10年間の契約を結んだが、そのときの契約金は年間約10億円といわれた。ユナイテッドは年間約38億円。ちょうど2倍の値段がついたことになる。
 マンチェスター・ユナイテッドは、わずか10年ほどの間にとてつもない「巨大産業」になってしまった。地元マンチェスター、そして英国各地だけでなく、世界の各地に専門のクラブショップを展開し、いまや「世界ブランド」とさえいえる。

海外の空港の免税品店を覗くと、スポーツ用品売り場には必ずといっていいほどこのクラブのレプリカキット(ユニホームセット)が置いてある。それが安いとはいえない値段なのだ。ナイキの巨額の契約は、ブラジル代表との契約に見られる世界最強チームという「イメージ戦略」より、むしろキットの製造販売利益という「実利」を狙ったものに違いない。
 先月、イングランドではもうひとつ別のうわさがもちあがっていた。マンチェスター・ユナイテッドが、どこのスポーツ用品メーカーとも契約を結ばず、独自のブランドをつくって、それを自ら商品展開するのではないかという推測だった。
イングランドのプレミアリーグには、独自のブランドのユニホームを着ているクラブがいくつかある。用品メーカーと契約するより、クラブのマージンは格段に大きくなるからだ。そして同時に、できるだけ安くして、毎年ユニホームを買い換えてくれるファンの負担を減らそうという考えだという。

 すでに「世界ブランド」となったマンチェスター・ユナイテッドなら、生半可なメーカーとの契約より、はるかに大きな利益に結びつくと指摘する声も多い。しかしクラブのグッズ売り上げが現在のまま続くとは、だれも保証できない。どんなクラブも、ずっと勝ちつづけることなどできないからだ。
だからユナイテッドは、よりリスクの少ない、「年間わずか38億円」のナイキとの契約に踏み切ったのである。
 すこし前までは2年にいちどほどだったクラブ・ユニホームのモデルチェンジも、最近では毎年行われるようになった。近年の流行は、「第2ユニホーム」を毎年大幅に変えることだ。
ホーム用のユニホームは、伝統のクラブカラーやデザインがあるので、マイナーチェンジしかできない。しかしアウェー用の第二ユニホームなら、赤から青にしても、あるいはピンクなどの奇抜な色にしても問題はない。「通」のファンは喜んで第2ユニホームも買う。ホーム用よりはるかに数は少なくても、ばかにできない売り上げになる。

 今季のヨーロッパ・サッカーを見ていると、第2ユニホームに、これまであまり使われていなかった色がはやっているのに気づく。うすいグレーだ。スペインのバルセロナ、イタリアのユベントス、フランスのパリ・サンジェルマンなどが、申し合わせたようにグレーの第二ユニホームを着ているのだ。
 レプリカ・ユニホームはクラブやあこがれの選手たちとファンを結ぶ重要な道具ではあるけれど、マンチェスター・ユナイテッドとナイキが結んだ契約の額を見て、なにか複雑な思いがするのは私だけだろうか。

(2000年11月8日)
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