サッカーの話をしよう

No.329 オリンピック「小野外し」でアジアカップが見えた

 「アジアカップが見えてきた」
 27日に発表されたシドニー・オリンピックの代表メンバーを見て、私がまず感じたのはそのことだった。
 最大のポイントは、小野伸二(浦和レッズ)を外したことだ。相次ぐ負傷でコンディションが万全ではないとはいえ、小野のタレントはオリンピックの上位進出にぜひともほしかったに違いない。しかしトルシエは体調が100パーセントではないという理由で(と想像される)小野を選ばなかった。10月に、日本サッカーにとってオリンピックに負けないほど重要な「アジアカップ」が控えているからだ。
 アジアカップはアジアのチャンピオンを決める大会である。4年にいちど、オリンピック年に開催される。日本は92年の広島大会で初優勝を飾ったが、前回の96年大会では準々決勝で敗退した。

 フィリップ・トルシエ監督に率いられる日本代表の最大のターゲットは、当然のことながら2002年のワールドカップである。今回のオリンピックも、その強化スケジュールの一環にすぎない。たとえメダルを取ったとしても、ワールドカップの目標「決勝トーナメント進出」を逃したら意味は半減する。
 そしてアジアカップは、ワールドカップへの準備という面では、オリンピック以上の意味をもつ大会である。
 日本にはワールドカップ予選がない。開催国のひとつとして自動的に出場権を与えられているからだ。だからアジアカップでは、優勝か、それに準じる成績を残し、「予選なしで出場」の正当性を示す必要がある。
 同時に、予選がないことで、タイトルをかけた「真剣勝負」は、2002年前にはこのアジアカップが最後になるかもしれない。来年のコパ・アメリカ(南米選手権)は参加が難しい状況だ。となると、2001年から2002年にかけてのチーム強化は、もっぱら親善試合が中心になることになる。

 2002年に向けて重要な意味をもつ2大会が、9月、10月に連続して行われることは、日本にとって頭痛のタネだった。オリンピックで上位に残ったら、2週間半のうちに6試合を戦うことになる。アジアカップも決勝までいけば同じ試合数だ。
アジアカップ開催国は中東のレバノン。開幕は10月12日。オーストラリアでフルに戦った選手が再びコンディションを整えて参加できる時間的余裕はない。だからトルシエ監督も、オリンピックで上位まで行った場合は、アジアカップにはまったく違うメンバーで臨まなくてはならないと覚悟しているはずだ。中田英寿も、中村俊輔も、稲本潤一もいない日本代表だ。
 そこに小野が「残った」意味が出てくる。10月までにコンディションを上げられれば、アジアカップで大きな戦力になるのは間違いない。だから敢えて万全ではない小野を外したのだ。

もしアジアカップがなければ、大会の後半にしか間に合わない状況でも、小野はオリンピックの18人に入れられただろう。昨年のワールドユースで、トルシエは負傷をかかえていた稲本を18人のメンバーに入れてナイジェリアに連れていった。近い将来、彼が日本を背負う選手になると判断したからだ。
 「アジアカップ・チーム」の攻撃陣には、脂の乗り切った森島寛晃と西澤明訓のセレッソ・コンビ、カズ(三浦知良)、中山雅史らがいる。そしてMFには名波浩、FWには城彰二という切り札もいる。もちろん、GKは川口能活で万全だ。
DFラインにやや不安は残るが、こう見ると、アジアカップでも十分優勝を狙うことのできるメンバーがいることがわかる。そこに天才・小野のパスワークが加わることで、2002年に向け重要な準備のステップを踏めると思うのだ。

(2000年8月30日)
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