サッカーの話をしよう

No.320 Jリーグにより激しさを

 6月上旬のハッサン2世杯(モロッコ)に始まって、ベルギー、オランダでのヨーロッパ選手権のグループリーグを見て帰国し、先週の土曜日にはJリーグ第2ステージ開幕の柏レイソル対ジュビロ磐田戦を見た。
 国際試合が連続したあとで見た国内の試合は、新鮮なイメージで、なかなか楽しかった。Jリーグの技術的なレベルはけっして低くない。数人の相手に追い込まれてもあわてずに打開できる選手が何人もいる。
 ただ、ヨーロッパ選手権に比べると、試合の激しさという点では非常に落ちる。相手ボールになってから守備にはいる早さ、詰めの激しさ、ひとつのボールにからんでいく人数、ボールをめぐる争いの厳しさなど、Jリーグの比ではないのだ。
ヨーロッパ選手権で上位に進出したチームは、例外なく、高い技術とともに90分間を通じてこうした戦いをやりぬくタフさをもっていた。そのタフさは、見ていて怖くなるほどだ。

 Jリーグのクラブからこの大会にただひとり出場していた名古屋グランパスのストイコビッチ(ユーゴスラビア)は、数々のすばらしいプレーを見せた。しかし準々決勝のオランダ戦では、激しいサッカーについていくことができない様子だった。Jリーグでは見せたことのない弱気な表情が、一瞬だったが、テレビに映し出された。
 2002年に地元にワールドカップを迎える日本としては、ストイコビッチに恐怖感を抱かせるようなサッカーにどう対処していくのか、しっかりと方向性を見定めなければならない。思えば、昨年7月にコパ・アメリカ(パラグアイ)で日本が直面したのも、南米チームの思わぬ激しさだった。
 直接的には、これから2年間のうちに、アウェーでの国際試合を増やし、日本代表チームとして厳しい状況での戦いに慣れなければならない。だが、それ以上に大事なのが、Jリーグの試合をより激しく、厳しいものにすることだ。代表選手の強化だけでなく、日本サッカー全体の底上げをすることが、長期的に見て必要なことだからだ。

 Jリーグの試合をより激しく、厳しいものにするには、1試合1試合に対する準備をしっかりできるようにしなければならない。リーグ戦をきちんと週1試合のペースにして、月曜から金曜までをすべて次の試合の準備にあてられるようにする。相手を考えた戦術面の準備と同時に、フィジカル面、メンタル面でも万全の準備ができるはずだ。
 今季の第1ステージのように、土曜日、水曜日と休みなく試合が続くようでは、前の試合の疲れをとるのが精いっぱいで、次の試合に向けて戦術を練り、フィジカル面、メンタル面で準備することなど不可能だ。そうしたことが積み重なって、現在のJリーグの「甘さ」がある。
 日本代表のトルシエ監督は、契約更改の条件のひとつとして、日本代表とJリーグの日程調整に直接かかわることを挙げているらしい。代表として活動できる期間は短い。そこでは、チームとしての約束事を確認する時間しかない。個人的な技術、フィジカル面での準備は、日ごろから所属クラブで行われなければならない。そのためには、きちんとしたリーグ日程が必要だ。トルシエの要求は当然だ。

 ヨーロッパの選手たちは、例外なく、まず激しく、厳しい国内リーグで鍛えられ、フィジカル面でもメンタル面でもしっかりとプロとしての土台がつくられている。それがあって初めて、チャンピオンズリーグをはじめとした厳しい国際試合が、経験として生きるのだ。
まず、Jリーグの厳しさ、激しさのレベルを上げなければならない。毎週のリーグを、全身全霊をかけて戦えるようにしなければならない。

(2000年6月28日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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