サッカーの話をしよう

No.303 新FKルール案は成立するか

 毎年1回の定期会合でサッカーのルール改正を決めている国際サッカー評議会(IFAB)の第104回会議が、先週土曜日にロンドン郊外で開かれた。
 ことしの7月1日から施行される改正の大きなものはGKルール。これまでの「4ステップルール」が廃止され、保持してから「6秒以内」に手放すことだけが義務づけられた。
 しかしことしの最大の話題は、近い将来の導入を見越してのふたつの新ルールの実験の承認だった。ゴール判定機の導入、そして非常に大きな影響をもちそうな、「新フリーキック(FK)ルール」の実験だ。
 「疑惑のゴール判定」が問題になるたびに「機械判定」の導入が叫ばれる。いま検討されているのは、カメラではなく、テニスのサーブの判定で実用化されている「ビーム」(信号電波)を使う方式だという。

 さて、「新FKルール」とは、FK前に守備側に何らかの違反行為があったときに、ボールをセットする位置を9.15メートル守備側のゴールに近づけるというものだ。ラグビー・ルールからの借用だという。ただし、前進させても、ペナルティーエリアのなかに入れることはない。
 その違反には、「ボールから規定の距離(9.15メートル)離れようとしないこと」、「ボールを離さず、FKを遅らせること」、「ボールを遠くへ投げたり、けったりすること」、「言葉や行動で異議を唱えること」、そして「その他の反スポーツ的行為」と、五項目にわたる広範な行為が挙げられている。

 ゴール前で攻撃側の選手が倒されてレフェリーの笛が吹かれる。ボールをセットしてゴールを狙おうとする攻撃側。しかし守備側は、あるときには判定への異議を執拗に唱え、またあるときにはボールから極端に近くに「壁」をつくり、すぐにはFKをけらせないようにする。試合は1分近く止まる。こうしたみにくい時間かせぎを撲滅し、試合をスピードアップさせることが新ルール案の目的だ。
 「新FKルール」はすでにイングランドの地方のリーグ戦や、2部と3部リーグのクラブが参加するカップ戦で実験され、好評だ。昨シーズンのこのカップ戦では、実験が実施された40試合で850回のFKが行われ、レフェリーが守備側に罰則を課したのはわずか16回だった。新ルールが守備側の時間かせぎの「抑止力」になったと、この新ルールの提唱者で強力な推進者でもあるイングランド協会は分析している。
 イングランド協会は、2000〜2001年のシーズン、できればプレミアリーグ、FAカップをはじめとした主要大会のすべてで「最終テスト」を実施する意向だという。

 FKのたびに見せられる守備側の悪質な行為には本当にうんざりする。新ルールの妥当性に疑いはない。しかし心配な面もある。レフェリーにかかる負担が、また重くなることだ。
 97年から施行されているはずのGKの「5〜6秒ルール」を思い起こしてほしい。「4ステップルール」と合わせてのGKのボール保持制限だったが、反則をとると攻撃側にペナルティーエリア内で間接FKを与えるという重大な状況になる。そのせいか最近ははほとんど適用例が見られない。GKのプレーが早くなったというより、レフェリーが判定を避けているように思えてならないのだ。
 罰則に相当する行為の種類は明確に示されているが、どの程度から罰則を適用するかはレフェリーの裁量となる。レフェリーは非常に重大な判断を下さなければならず、それが新たな問題につながる恐れもある。
 明確な判定基準をつくることができるかどうかが、この「新FKルール案」の成否を握っているように思う。

(2000年2月23日)
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