サッカーの話をしよう

No.236 Jリーグを土曜夜に

 Jリーグの観客数が持ち直しつつある。
 第1ステージ終了時の1試合平均観客数は1万2419人。1万0131人だった昨年を2000人以上も上回っている。94年の1万9598人には遠く及ばないが、3年連続で減り続けていた傾向に、ことしは歯止めがかけられそうだ。
 とはいっても、手放しで喜べる状況ではない。横浜国際競技場(収容7万人)の登場により、横浜の2チームの観客数が大きく伸びていることが、「平均」に少なからぬプラスを与えているからだ。とくにマリノスは、昨年(9212人)の倍以上の2万0586人を集めている。
 ことしの特徴は、当日券が多く出ていることだそうだ。昨年まではほとんど売れなかった当日券が、1試合平均で2000枚も出ているという。鹿島と浦和以外は前売りで売り切れにはならないことがファンの間にも浸透し、天候やチームの話題性などで、「行ってみようか」と考える人々が増えたのだろう。

 天候に恵まれた9月5日土曜日に東京の国立競技場で行われたヴェルディ川崎×浦和レッズ戦には、第2ステージにはいって最多の3万3780人が集まった。最寄りのJR千駄ヶ谷駅からスタジアムに向かう道には屋台や弁当売りが立ち並び、威勢のいい売り声が続いていた。
 しかし多くのファンをもつレッズが開幕から2連勝で首位に立ち、「宿敵」といっていいヴェルディとの対戦だったというのに、スタンドには大きな空席が目立った。原因はキックオフ時間にあったようだ。
 この試合は午後3時キックオフ。しかしこの土曜日は学校のある日だったのだ。昼まで授業を受けると、埼玉や川崎方面から3時に間に合うように国立競技場に行くのはかなり難しい。午後7時キックオフだったら、4万人台も不可能ではなかっただろう。

 こうしたことがわかっていながら3時キックオフにしたのは、テレビ中継の都合だった。現状ではJリーグの中継で高い視聴率は望めない。当然、東京の「キー局」では、夜のゴールデンタイムでの放映は無理だ。生中継をしようとしたら、どうしても昼間の試合になってしまう。民放での中継がはいっていたこの日は、午後3時キックオフを動かせなかったのだろう。
 しかし待ってほしい。Jリーグは、93年のスタートを前に大がかりなアンケート調査を行い、基本的な試合時間を決めた。それは土曜日の午後6時半だったはずだ。
 Jリーグの観客は、サッカー部在籍の中高生が少なくないだろうと予想された。土曜日の午後や日曜日だと、練習や試合があるので、なかなか観戦に行くことができない。それはせっかくのいい「お手本」を見ることができない中高生にとっても、潜在的なファン、観客を動員できないクラブ側にも不都合だ。

 このキックオフ時間を決めたとき、川淵チェアマンは「テレビ中継の都合を考えるよりも、できるだけ多くの人にスタジアムにきてほしい」と説明したはずだ。しかしいま、そうした「初心」はすっかり忘れ去られてしまっている。
 Jリーグのファンは、サッカー部の中高生に限らない。しかし現在のJリーグは、「見たいけれどこの時間では行くことはできない」というファンをほおっておく余裕などないはずだ。授業のある土曜日かどうか、サッカー部の中高生たちが見に来ることができるかどうか。初心に戻り、細かな気配りをすることが、ファンを定着させ、スタジアムを再び満員にさせる力になるはずだ。

(1998年9月9日)
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