サッカーの話をしよう

No.190 新アマチュア全国リーグに大学生の参加を

 Jリーグが99年度から大きく変わる。かねてから計画のあった「アクションプラン」が実行に移され、1、2部制になるのだ。
 1部は16クラブ、他の参加希望クラブが2部を構成することになる。そして「アマチュア全国リーグ」がその下につくられる。きょうの話は99年にスタートするそのアマチュア全国リーグ。大学チーム参加の提案だ。
 日本サッカー協会の登録区分では、Jリーグのクラブも、サッカー好きが集まった町のクラブチームも、そして大学のチームも、まったく同じ、年齢制限のない「第一種」のチームとなっている。
 その第一種のなかで同じようなレベルのチームが集まってつくられているのが各種の「リーグ」だ。都府県リーグが基本になり、その上に関東、東海などの地域リーグ、さらにその上に現在はJFLとJリーグがある。いわば「ピラミッド構造」のリーグ組織が、日本サッカーの「骨格」となっているのだ。

 だが、この「ピラミッド構造」から離れ、独自のリーグをつくっているチームもある。銀行リーグ、商社リーグなどだ。そしてそのなかで無視できない存在が「大学リーグ」なのだ。
 大学サッカーには全国リーグはなく、9地域のリーグが頂点となっている。その下に各都府県のリーグがある。「全日本大学連盟」に加盟校は402校(96年)にのぼる。
 無視できないのはその実力だ。大学のトップクラスのチームがJFL程度の力があることは、「第一種」(96年から第二種も)の全チームに門戸が開かれた天皇杯で証明されている。毎年どこかの大学チームがJFLのチームを倒してベスト16やベスト8に進出しているのだ。
 Jリーグのチームが大学に負けた例はないが、90年には読売クラブ(現在のヴェルディ)がPK戦で国士舘大学に敗れて大きな話題になった。

 Jリーグ時代になって、高校の有力選手は大学よりもJリーグに行く傾向が強い。だが大学にも有望選手が多いことは、95年のユニバーシアード優勝を見るまでもなく明らかだ。その選手たちが、4年間の大半を同年代の選手たちだけを相手に試合しているのは、なんとももったいない。
 大学のトップクラスのチームが、実力にふさわしい全国リーグでプレーすることによって、選手たちは大きな経験を積み、選手として成長することができるはずだ。それだけではない。周囲の社会人やクラブチームにも、大きなプラスになるはずなのだ。
 実は、大学チームを全国リーグに入れようという案は65年に日本リーグが始まる前に真剣に検討されていた。当時の日本では大学と企業チームの力には大きな差はなく、天皇杯で大学チームが優勝するケースも少なくなかったのだ。

 だが、結局のところ大学チームは日本リーグには参加しなかった。ひとつには毎年4年生が卒業してしまうので、春先には極端にチーム力が落ちてしまうという理由があった。だが何よりも決定的な要因は、大学のスポーツが、他大学との競技が第一義で、大学以外のチームとの試合には「体育活動」としての予算がつかないことだった。
 偏狭なセクショナリズムで学生たちが伸びるチャンスを奪ってはならない。新しい「アマチュア全国リーグ」に、ぜひ大学チームの参加を期待したい。同時にサッカー協会側も、いくつも難しい問題もあるだろうが、学生たちにその実力にふさわしいリーグでプレーする機会を与える努力をしてほしいと思う。

(1997年5月19日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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