サッカーの話をしよう

No.180 Jリーグも固定番号制に

 先週Jリーグが発表した登録選手名簿を、ちょっとニヤニヤしながら見た。今季から「背番号登録制」となったからだ。
 昨季までは試合ごとに先発選手が1から11番を付けた。交代選手は12から16番だった。今季からは選手が固有の背番号をもち、シーズンを通じてそれを付けて試合に出場する。
 カズは11番、ストイコビッチは10番、井原は4番。このへんは当然だろう。
 ガンバのMF今藤は4シーズンのうちに2番から11番まですべての番号でプレーしたが、8番に落ちつくことになった。フリューゲルスからヴェルディに移籍した前園は約束どおり7番。アントラーズの10番は昨年までヴェルディでずっと7番だったビスマルクだ。

 興味深いのは、ヴェルディが石塚に10番を与えたことだ。「才能は若手でトップクラス」と言われながら、なかなかでレギュラーポジションをとれなかったが、今季はこの背番号にふさわしい活躍を見せてくれるだろうか。
 実のところ、私は1から11番で試合をする昨年までの方法が好きだ。固定制にすれば、当然大きな番号を付けた選手が出場する。プロの雰囲気が台無しだ。シーズン途中に世界的なスター選手が移籍してきても、37などという番号になる。許しがたいことだと思う。
 とはいっても、これは純粋に「趣味」あるいは「美意識」の問題だ。サッカーの質自体には関係がない。だからあまりうるさいことは言わないことにする。
 日本のサッカーでは、固定制は目新しいものではない。1965年に日本リーグが誕生したときに、「ファンに選手を覚えてもらおう」と固定制にした。

 日本リーグ時代には、実力があっても新人の年にはレギュラー番号を与えられないケースも多かった。あの釜本さえ、一年目は背番号20だった。カズもブラジルから帰国した1年目には24番を背負っていた。現在のファンに想像できるだろうか。
 Jリーグに移行するときに廃止した固定制を復活させたのは、ヨーロッパの流れに追随しているからにほかならない。
 イングランドでは数年前に固定制を導入た。これによってシャツの背中に選手名がはいり、レプリカユニホームの売り上げなどマーチャンダイジングの面で大きな成功を収めた。それを見たイタリアが95年に固定制に変え、他の西ヨーロッパ諸国も昨年までに大半が切り替わった。
 Jリーグでは選手名ははいらないようだが、レプリカユニホームはよく売れるようになるだろう。

 ところで、固定背番号というと、どうしても外すことのできない話がある。
 オランダ・リーグでは、70年にファン獲得のために固定制を採用した。当時のヨーロッパでは画期的なことだった。そのとき、アヤックスのある若い選手が「何番にする?」と聞かれてこう答えた。彼は当時すでに国内のトップスターだったから、何番でも優先的に選ぶことが許された。
 「10番といえばペレ、9番といえばディステファノのイメージだ。僕は、誰でもない、僕のイメージをつくりたい」
 そう言って彼が選んだのが14番だった。ヨハン・クライフ。この若者はほどなく世界のトップスターとなり、14番は世界中のサッカー選手の新しいあこがれの番号となったのだ。
 せっかく固定制にしたのなら、どの選手も、自分の番号が少年たちにあこがれられるようがんばってほしい。番号が選手をスターにするわけではない。選手のすばらしいプレーが、番号を光り輝かせるのだ。
 
(1997年2月17日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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