サッカーの話をしよう

No.129 チャンピオンシップだけでなく、毎週好試合を見たい

 「私自身一試合興奮して見ていた。こうした試合が来年からなくなるのは、正直なところ残念に思う」
 チャンピオンシップ後、Jリーグの川淵三郎チェアマンはこう語った。
 集中力あふれるチームディフェンスからカウンター攻撃をかけるマリノス。それを力でねじふせようとするヴェルディ。ことしのチャンピオンシップは、激しく、厳しく、すばらしいゲームだった。互いの激しさを乗り越えるもう一歩の技術という面で不満は残ったが、それは試合としてのトータルなすばらしさを失わせるものではなかった。きっと、テレビで見た人びとも同じように感じたのではないかと思う。
 「こういう試合を通してこそ、選手というのは成長していくに違いない」
 自分に与えられた役割を懸命にこなし、チームのために闘う選手たちを見て、私は痛切にそう感じた。

 だがその一方で、「なぜチャンピオンシップでしかこんな試合ができないのだろうか」という思いも強く残った。
 大学の卒業式で記念講演を頼まれたあるアメリカ人作家が、「卒業式で初めて本当に大事なことを打ち明けるより、4年間かけてじっくり教えたほうがずっといいのに」と話したと読んだことがある。Jリーグでもなぜ毎週のリーグ戦でこれだけ充実した試合ができないのだろうか。
 原因は明らかだ。リーグ日程がきつすぎるのだ。ほとんど毎週、水曜日と土曜日に試合をやるような日程では、戦術面・体力面・精神面のあらゆる面で次の試合のための十分な準備などできるわけがない。
 準備ができなければ、いい試合はできない。いい試合ができなければ、そのなかで選手を伸はすことはできない。簡単な道理だ。

 日本のサッカーを強くするためには、「週一試合」のリーグ戦にしなければならない。それを30週なり34週続けることによって、初めて選手は大きく伸びるのだ。
 このテーマは過去に何度も書いた。だがまだ書かなければならない。Jリーグは来年16クラブに増え、初めて「シーズン1ステージ」になるが、発表された基本日程はあまりに失望させるものだったからだ。
 1シーズンを「ホームアンドアウェー」の2回戦のリーグで行うのだから、基本的には「週1試合」になると予想していた。だが発表されたのは2週にいちど水曜日にも試合を入れる日程。春と秋にリーグ戦を集中させ、夏には別のカップ戦を行う。そのカップ戦は基本的に「週2試合」だ。
 結局は、今年度までと大差のない相変わらずの「過密日程」のなかで、選手たちは疲れきり、あまり「成長」は望めそうもない。

 イタリアの「セリエA」をテレビで見ていて、いつも感じるのは、その1試合にかける集中力だ。ひとつのボールへの競り合いが1点につながり、1勝に、そして優勝につながることを選手たちはよく理解している。だから、リーグの1試合をまるでチャンピオンシップのような集中力で闘い抜く。
 そのためには、肉体面、精神面、そしてチーム戦術の面で、試合ごとにしっかりとした準備が必要であるのはいうまでもない。
 日本サッカーの「強化」に責任をもつ日本サッカー協会は、Jリーグの日程決定にどのように関与してきたのだろうか。
 現在のJリーグには「日本サッカーの強化」など眼中にないのかもしれない。だが「チャンピオンシップがなくても毎週毎週すごい試合があるぞ」といえるようにしない限り、Jリーグ自体の将来もないのだ。

(1995年12月12日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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