サッカーの話をしよう

No.87 なぜ日本選手は疲れ切っていたのか

 サウジアラビアで行われた「インターコンチネンタル選手権」で日本が対戦したナイジェリアは非常にタフなチームだった。何よりもパワーがすごかった。
 日本選手がボールをとったと思った瞬間、強烈なショルダーチャージに吹き飛ばされた場面が何度もあった。イーブンのボールに対する寄りの速さと力強さも驚くべきものだった。
 「筋力の不足」は、昨年日本代表の監督を務めたファルカンの指摘を待つまでもなく、日本サッカーの問題のひとつだった。
 だが、ナイジェリアとの対戦ほど日本選手の肉体的能力の限界を思い知らされた試合はなかった。単なるコンディションの問題ではなく、個々の選手の「筋肉の量」が違うといった感じだったからだ。

 この問題は、代表チームでのトレーニングでカバーできるものではない。体力というのは、一年の大半を過ごす所属クラブで計画的なトレーニングをして、数年間かけてつくりあげていくものだからだ。
 かつては、サッカーのコーチが経験をもとに体力トレーニングを行っていた。それを初めて専門家の手に委ねたのは日本リーグ時代の89年、「三冠」の王者日産だった。オスカー新監督がブラジルからマフェイというフィジカルコーチを連れてきたのだ。
 以来、他チームも次つぎと外国の専門家を招くようになった。サッカーのフィジカルコーチは経験を要するため、外国人を連れてくるしかなかったのだ。
 おかげで、どのチームも2、3年のうちに大きく体力アップに成功した。Jリーグになって急に激しいサッカーが可能になった裏には、こうしたフィジカルコーチの働きがあった。

 ところがJリーグ時代にはいると毎週2試合が原則となった。シーズン中の試合と試合の間は「回復」、「調整」がやっと。せいぜいできて「維持」のためのトレーニング程度だ。
 シーズンが深まるにつれて疲労は蓄積し、筋力をはじめとした体力レベルは落ちる一方だ。シーズン前のトレーニングで最高潮までもっていた体力をくいつぶしながらシーズンをこなしている現状なのだ。
 シーズン終了直後に行われたインターコンチネンタル選手権、日本選手の体力が「最低」のレベルだったのはあまりに当然だった。

 体力レベルを上げていくには、シーズンを通じてトレーニングを行い、開幕当初より終盤のほうが上がっているようにしなければならない。週2試合の日程でそれが可能だろうか。残念ながら、それが実現できたクラブは皆無だ。
 とすれば、「週1試合」を基本とするサッカー本来のリズムに戻すべきではないか。
 週1試合なら間に体力トレーニングをはさむことができる。それによって、シーズン中にも体力を上げ、シーズンが終わったときには1年前より確実にレベルアップしているはずだ。

 そもそも、週2回のリーグにしたのは、激しいリーグで国際試合にも通用するタフな選手をつくろうという、純粋に強化を目的としたものだった。だがJリーグがスタートすると、各クラブの「台所事情」が優先され、「1試合でも多くやりたい」ための週2試合になってしまった。
 95年、14チームに増えたJリーグは、4回総当たりで1チームあたり52試合もこなさなければならならい。
 このままでは、シーズンが終わったとき私たちが見るのは、見違えるようにたくましくなった選手ではなく、1歳年をとってぼろ雑巾のようになった選手たちであるに違いない。

(1995年1月24日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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