サッカーの話をしよう

No.75 強化委員会 プロを使うのもプロの仕事

 アジア大会準々決勝での男子の敗退は、日本サッカーにとって大きなショックだった。期待がかかっていただけに、大会全体の盛り上がりにも水をさす結果となった。

 広島アジア大会は多くのボランティアの献身と親切な気持ちに支えられ、好ましい印象を残した。だが大会運営の実情は大変だったようだ。その原因のひとつが「素人流儀」にあったと言ったら過言だろうか。
 現代の国際的なスポーツ大会の運営は高度に専門職化している。とくに男子サッカーなどプロ選手が出場する競技では、つめかける観客の多さやその質(Jリーグのサポーターのような大騒ぎをする人も多い)、そしてメディアの注目度など、通常の「スポーツ大会」の尺度では測りきれない要素が出てくる。それを取り仕切ることができるのは訓練された「プロフェッショナル」、職業的な人だけでなく、その業務に精通した専門家たちだ。
 広島県サッカー協会は92年のアジアカップ以来貴重な経験を積み、多くの分野にわたって専門家をもっていた。しかしアジア大会では、広島市役所からきた「素人」が県協会の「プロフェッショナル」の上に立ち、いろいろな仕事に混乱をもたらした。

 考えてみれば、いろいろな場面で同様の事態が起きている。Jリーグのいくつかのクラブでは、「本社」から出向してきた役員、プロサッカーやサッカーそのものの知識に欠けるばかりか、愛情も興味もない人々がプロフェッショナルのスタッフの上に立ち、多くの混乱の元になっている。
 プロでなければできない仕事がある。そのためにプロを使う。であれば、その上に立つ人々も、「プロを使う」という仕事に関してプロフェッショナルでなければならない。
 「プロフェッショナル」とは、その仕事に関する十分な知識と経験をもち、あらゆる事態についてその場その場で正しい判断を下せる見識を備えた人だ。

 そしてもうひとつ、プロフェッショナルは、人生とはいわなくても生活の大きな部分をその仕事に捧げていなければならない。アマチュアがプロを使えないように、「パートタイマー」にもプロを使うことはできないのだ。
 日本代表チームはどうだろう。選手はプロフェッショナル。監督も、コーチもマッサージ師もすべてプロだ。しかしその上部に立つ組織、日本協会の「強化委員会」はどうなのか。

 現在の強化委員会のメンバーは、「プロフェッショナル」として経験や見識を備えた人びとだと思う。しかしそのうちいったい何人が、この仕事に生活の大部分を割いてきたのか。
 強化委員長はJリーグのチェアマンという非常に重要な職にある。副委員長は現役の選手であり、同時に大学の助教授という超多忙男だ。そしてもうひとりの副委員長は、代表の世話より海外組織との関係を結ぶ仕事に追われている。
 こんな状態で、誰が日本代表チームをマネージメント(管理運営)していくことができるというのか。

 日本代表チームの再建の第一歩、それは日本代表にかかわるすべての仕事の専従化にある。代表チームのことを24時間考え、そのために働き動く人をヘッドに据える必要がある。そして「強化委員会」という名称を使うかどうかは別にして、日本代表の強化プロジェクトに関わる人びとをすべてプロフェッショナルで同時にフルタイムのものにしなければならない。
 日本サッカーは強化のための大きな1年を棒に振ってしまった。同じ失敗を繰り返すことは許されない。

(1994年10月18日=火)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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