サッカーの話をしよう

No.58 USA94の主役は陽気で積極的なボランティア

 ワールドカップが開幕して早くも4日目が過ぎた。連日のように会場を移って取材しているが、どの会場も満員の観客でふくれ上がり、すばらしい雰囲気だ。
 360万枚用意された入場券も大会前には大半が売り切れた。大会の観客数記録(90年イタリア大会の約250万人)を更新するのは確実だ。

 88年にアメリカ開催が決まったとき、サッカーがナンバーワンでない国ということでずいぶん心配された。組織委員会は、バスケットやフットボールの有名スポーツマンをCMに使うなど、「啓蒙」に努めてきた。しかし大会が近づいてからも「国民の3割しか大会の存在を知らない」という世論調査が出るなど、盛り上がりを心配する空気が強かった。
 だが、シカゴの空港に着いたときから「がんばっているな」という印象をもった。街灯のポールには大会旗がひるがえり、店のディスプレーにも大会マスコットやロゴが並んでいる。
 もっとも、試合会場以外の都市では世論調査のとおりかもしれない。17日のテレビのトップニュースは「ワールドカップ開幕」ではなく、O・J・シンプソンの殺人事件だった。

 4年前のイタリア大会はすばらしい盛り上がりだった。サッカーが第2の宗教のような国だけに、国民の大半が熱狂的に歓迎した。大会運営も、国の威信をかけているようで、施設もサービスも何もかもがすばらしかった。
 それに比べると、今回はそれぞれの都市単位で努力している感がつよい。各都市の最初の試合前に、17日のシカゴでの開幕戦と同じような、かなり大きな規模のセレモニーが行われたことに、この国の人びとの意識が現れている。

 そのためか、運営やサービスも会場によってばらばらだ。スタジアムは既存のものに少し手を加えた程度(多いところで数億円の規模)だし、メディア関係の施設もきわめて質素だ。
 しかしだからといって、この国のワールドカップを批判する気にはなれない。4年にいちど、開催国を移しながら行われるワールドカップ。私が取材してきた過去の各大会にも、それぞれの顔があった。74年西ドイツ大会は雨の大会だった。78年アルゼンチン大会は非常に寒かった。86年のメキシコは太陽の大会だったし、90年イタリアはローマ帝国2000年の歴史のうえに「カルチョ」の文化が咲き乱れていた。では94年アメリカは?

 カラフルで陽気な観客で埋まったスタンドのすばらしさとともに私にとって印象的なのは、メディアセンターやスタジアムで働くボランティアの人びとだ。
 大会ロゴをあしらったTシャツと半ズボンといういでたちで、何百もの人が働いている。その年齢層も、高校生から80歳を超えるおばあちゃんまで、実にバラエティーに富んでいる。だが例外なく陽気で積極的で責任感がある。
 何よりもすばらしいのは彼らの心からの笑顔だ。クレームをつけても、彼らの笑顔にいつの間にが怒りは消えてしまっている。

 最初はいくつもの問題をかかえながら、最終的には終わるのが惜しまれるようなすばらしい大会になるのではないか。ほとんど空席のな巨大スタジアムの盛り上がりで、大成功の大会になるのではないか。そんな予感がする。
 8年後の大会をもってこようという日本が忘れかけていることが、この大会にはある。それは、ワールドカップはスポーツの大会だということだ。見る側も運営する側も、みんなが楽しめる大会こそ、すばらしいワールドカップなのだ。


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(1994年6月21日=火)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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