サッカーの話をしよう

No.15 アメリカの失敗にJリーグが学ぶこと

 入場券がカードを問わずプラチナペーパーといわれるなど、Jリーグのブームはまだ陰りもない。そして外国でも想像以上にJリーグに対する関心は高い。
 海外マスコミやサッカー関係者は、おおむねJリーグを2002年ワールドカップ招致活動と同様、周到な準備に支えられたすばらしい仕事と評価している。しかし一部には、「第二の北米リーグになるのでは」と懸念する人もいる。

 北米サッカーリーグ(NASL)は、1968年にアメリカとカナダにまたがるプロリーグとして誕生、17シーズンの活動後、85年に消滅した。
 サッカーの土壌がゼロといっていい地域で、75年にペレ(当時34歳)を現役復帰させたのを期に大ブームとなり、77年に7万7691人の最多観客を記録、78年には24クラブとなった、だがその後急速に人気は落ち、84年が最終シーズンとなった。
 これまでプロサッカーがなかったところに作られ、しかもジーコなど盛りを過ぎた世界のスターを連れてくるなど、たしかにJリーグはNASLと似た要素がある。しかし両者を細かくチェックしてみれば、根本的に違うことがわかる。

 両者の相違点は、おおざっぱに以下の4点だ。
 第一は、リーグづくりの動機。Jリーグは旧日本サッカーリーグの改革から生まれ、日本サッカー協会が主導権をとった。目的は日本のサッカーを強くすること、サッカーを盛んにすること。それに対しNASLはビジネスマンがつくったもの。プロスポーツはビッグビジネス。アメリカンドリームをかけた男たちが投資家を募り、各地にクラブをつくったのだ。
 相違点の第二はテレビに対する考え方。Jリーグは「テレビは第二義的。スタジアムに観客を呼ぶことを第一としたい」という方針だが、NASLではテレビこそ生命線。CBSネットワークとの中継契約がなければ、NASLは誕生することもなかっただろう。
 第三は国際サッカー連盟(FIFA)との関係。Jリーグ参加チームの経営者たちに強調されたのは、リーグはFIFAと日本サッカー協会の管理下にあるということ。NASLはサッカーを知らない北米の人びとを引きつけるために、ゴールから30メートルまでオフサイドをなくし、独特の勝ち点方式などを採用した。FIFAはこれに強く反発、他国との交流禁止の脅しまでしたが、NASL側は最後まで折れなかった。サドンデス導入に当たってJリーグが何度もFIFAと交渉したのとは大きく違う。
 そして第四の相違点、それは、その国の選手の存在だ。Jリーグでは、外国人選手は登録は最多5人、出場できるのは1試合につき3人まで。しかしNASLでは、アメリカまたはカナダ生まれの選手を1人だけ出場させればいいという規約だった。当時の北米にはトップクラスのサッカーはなかったから、大半をヨーロッパや南米からの貸し出し選手でまかなった。

 こうした流れを見ると、Jリーグが今後どのような方向に行くべきか、いくつものヒントがある。
 まずサッカーを盛んにする、日本のサッカーを強くするという理念や目標を見失わないこと、第二に常にスタジアムをいっぱいにする努力を払うこと、第三に若い世代の育成に努め、日本人選手のなかからリーグをリードするスターを一人でも多く生み出すこと。
 こうした面で、現在のJリーグは正しい方向に進んでいると言っていい。歴史は学ばれるためにある。Jリーグは歴史の教訓を見事に生かしている。

(1993年8月10日=火)
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