サッカーの話をしよう

No145 完全「週1試合」でホーム戦交互に

 数字は、けっしてすべてではない。数字が語ることのできないことはたくさんある。だが、それにしてもひどい落ち込みようだ。Jリーグの観客数である。

 第5節終了時で1試合平均1万4795人。昨年と比較すると約2000人の減少だ。だが問題は平均値ではない。昨年と同様、あるいはそれを上回るクラブがある一方で、激しく落ち込んだクラブもあることだ。
 各クラブがまだ2あるいは3のホームゲームをこなしたばかり、材料が十分とはいえない時点での乱暴な比較になるが、競技場の収容数に対する観客数の割合の差があまりにひどい。

 鹿島では、なんと定員の97パーセントの観客を記録している。これに名古屋94パーセント、浦和92パーセントの「優良クラブ」が続く。それに対し、50パーセントを割るクラブが5つ(平塚、京都、G大阪、C大阪、広島)もある。とくに定員5万の「ビッグアーチ」をホームスタジアムにする広島は2試合で26000弱しか集まらず、26パーセントという散々な数字だ。
 このほか、柏、川崎、横浜Fの3クラブは50パーセント台。全16クラブのうち半数が「ガラガラ」といっていいスタンドの前でプレーしていることになる。

 急激なチーム数増加、宣伝不足、悪天候、テレビ放映の減少など、いろいろと言われている。だが相変わらずスタジアムを満員にし続けている3クラブを見れば、原因は明らかだ。
 この3クラブは、チームをより魅力的にしようという努力の一方で、ホームタウンのファンの心をつかむ努力を長年にわたって続けてきた。他のクラブはこの両面でどんな努力を継続してきたのだろうか。

 昨年秋、「入れ替え戦」が先送りになったとき、大きな理由はクラブを守ることと説明された。
 「降格させたらクラブ経営が破綻し、つくり上げようとしているサッカー文化を壊すことになる」
 見てほしい。マスメディアがつくり出した人気を自分たちのものと勘違いし努力を怠った結果、Jリーグにいるままで、いくつかのクラブは立派に破産の危機に瀕している。

 こうした危機的状況になって、ようやく各クラブは入場券を売り、ホームタウンのファンをつかむ研究や努力を始めた。4シーズン目にしてやっと「スタートライン」に立って本気で汗を流す気になったようだ。なにはともあれ、各クラブの健闘と幸運を祈りたい。

 クラブの努力を助けるために、ひとつの提案をしたい。それはリーグをできる限り「週1試合」に固定することだ。「週1試合」はたびたび主張してきたが、これまでは選手の強化が目的だった。だが観客動員においても重要な要素だと思うのだ。
 ことしのJリーグの日程は不完全な「週2試合」でリズムが悪い。完全な「週1試合」にして、ホームゲームがコンスタントに2週に1回あるようにする。ファンはホームゲーム観戦のリズムができる。それによって、いつでも「次のゲーム」が待ち遠しい状態になる。これが重要だ。

 今季は前期と後期の間を3カ月もとって「ナビスコ杯」を実施する。試合数を多くしてクラブの収入を増やすためだ。だがリーグ戦がこの調子では、ナビスコ杯で「黒字」になるほどの観客数を望めるかどうかさえ疑問だ。クラブ経営を助けるための大会が、逆に命取りになる恐れさえある。
 まずリーグ戦をできるだけ満員にすることを考えるべきだ。それが、プロサッカーの「商売」のすべての原点になる。テレビ中継もスポンサーも、ガラガラのスタンドの試合などにはけっしてついてくれない。

(1996年4月8日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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