サッカーの話をしよう

No13 システム考

 「野球はポジションがはっきりしているが、サッカーは入り乱れてプレーするのでわかりにくい」という声をよく聞く。今回はサッカー観戦の基礎知識の第二弾として、「システム」について解説しよう。

 サッカーのポジションを大きく分けると、ゴールキーパー(GK)、ディフェンダー(DF)、ミッドフィルダー(MF)、そしてフォワード(FW)。ラフな言い方をするとDFは守備、FWは攻撃、MFはその両者をつなぐ役。GKを除く三種類のポジションに十人の選手をどう配置するか、それが「システム」ということになる。

 現在のJリーグで最も多いのが4−4−2。DFとMFが四人、FWが二人のシステムだ。鹿島アントラーズやヴェルディ川崎がその例。DFの四人は両サイドバックと二人のセンターバック。中央を二人のセンターバックのコンビネーションで守る「ゾーンディフェンス」をとるチームが多い。
 ではなぜDFラインは四人なのか。フィールドの幅68メートルを四人で守ると一人の担当は17メートルとなる。DFは互いにカバーしなければならない。互いの距離はこれくらいが限界なのだ。
 MFには守備的な役割が一人。二人は右と左を分担し、一人が攻撃重点でFWをサポートする。アントラーズでいえば本田が守備的MF、サントスが右、石井が左、そしてジーコが攻撃的なMFだ。
 FWの二人は自分の個性に合わせて自由に攻撃プレーをする。ヴェルディではカズは広く動いてチャンスをつくり、武田は中央でシュートを狙うことが多い。

 横浜マリノスは4−5−1。これは4−4−2の変形だ。FWディアスのキープ能力が特別に高いからできるシステムだ。彼に相手DFの注意を引きつけ、右から山田、左から水沼が突破してチャンスをつくるのが得意パターンだ。
 これに対し、ジェフ市原の3−5−2システムは守備方法が基本的に違う。DFのうち二人はFWを「マンツーマン」で厳しくマーク、その後ろにリベロがいる。互いにカバーするのではなく、カバーの専門職を置いている点が特徴だ。
 MFの五人のうち二人は攻撃時には果敢に前進するが、守備時になると四人DFのサイドバックのポジションにはいる。5−3−2ともいえるシステムだ。

 監督に「システムは何ですか」と聞いても、答が返ってこない場合が多い。別に秘密にしているわけではない。個々の選手には試合によって果たすべき役割がある。勝負はそれができるかどうかで決まるのであって、システム自体がゲームの目標ではないからだ。
 だがそれでも、急に突飛な選手の配置はできない。結局は、なんらかのシステムでプレーする形になる。
 それぞれのチームがどんなシステムでプレーしているのか、そして誰が誰をマークしているのかに注意して試合を見ると、選手たちのポジションどりやプレーの意味もわかるようになってくる。そうすれば、サッカーはもっともっと楽しいものになるはずだ。

(1993年7月27日=火)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

アーカイブ

1993年の記事

→4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1994年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1995年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1996年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月