日本では「アギーレ・ジャパン」のスタートがサッカーの話題の中心となっているが、インドでは1カ月後に迫ったプロの新リーグ「インド・スーパーリーグ」の開幕に向け期待が高まっている。先週には「FCゴア」の監督にジーコが就任することも発表された。
1947年まで英国の植民地だったことから、第二次世界大戦後のインドはアジアのサッカー強国だった。1960年ローマ五輪ではハンガリーと接戦を演じ、フランスとは1-1で引き分けて「サッカーの未来はアジアに」とまで称賛された。
しかしその後はクリケットの人気に圧倒され、コルカタやゴアなど数都市以外では関心の低い競技となってしまった。現在のFIFAランキングは150位。アジアでも26位と低迷している。
今回のスーパーリーグはアメリカのスポーツマネージメント企業が出資し、インド全国に8つのプロクラブを創設して国民的関心を掘り起こそうというもの。初年度は8クラブが参加し、10月12日に開幕、12月20日にプレーオフ決勝を迎える。
興味深いのは欧州のビッグクラブのいくつかも投資していることだ。たとえばインドサッカーのメッカであるコルカタの「アトレチコ・デ・コルカタ」はスペインのアトレチコ・マドリードがインドの投資家グループらとともに経営に当たる。
どのクラブもひとりは世界的な名声をもつ「看板選手」と契約しなければならないという規約は、マーケティングからの発想だろうか。元イタリア代表MFデルピエロ(39)が「デリー・ダイナモズ」と契約、ベテランのスター選手が続々と参加を表明している。
さらにクラブはその他に7人の外国籍選手とも契約しなければならない。近年アジア各国リーグへの進出が盛んになった日本人選手の活躍も十分期待できる。インド人選手は14人以上。そのうち4人はクラブの地元出身選手である必要がある。
だがこの新リーグの成功を危ぶむ声も低くはない。元インド代表のMFチャタージーは「いまのインドの若者は、イングランドのプレミアリーグなど欧州のサッカーで目が肥えている。それに匹敵するものを見せなければスタジアムには来ないだろう。世界的スターといっても最盛期を過ぎた選手がそれを提供できるとは思えない」と懐疑的だ。
人口12億の超大国インド。新しいアイデアを詰め込んだ新リーグは、この国のサッカー再興の起爆剤となるだろうか。
(2014年9月10日)
「規制を繰り返せば解決する問題とは思っていません」
横浜F・マリノスのサポーターが川崎フロンターレの黒人選手に対して人種差別を示す行為をしたことに対する横浜FMへの制裁を発表する記者会見(8月29日)で、Jリーグの村井満チェアマンはこう話した。
ことし3月に浦和レッズのホームゲームで差別的内容の横断幕が掲出され、クラブの対応が悪かったこともあって1試合の無観客試合という厳しい処分が下された。以後、浦和はホーム・アウェーにかかわらずサポーターに横断幕や自分でつくった応援旗などの掲出を禁止している。
スポーツの観戦や応援は、本来、平和な場のはずだ。チームの区別や勝敗にかかわらずそこにいるすべての人がともにスポーツを楽しむ―。守らなければならないのは、決められた競技規則、そして互いへのリスペクトの気持ちだけ。差別とは対極のものだ。
そのスポーツ観戦・応援の場で差別的な表現が行われたら、スポーツは断固戦わなければならない。サポーターや地域の人々と徹底的に話し合い、ともに考えながら差別と戦うとした横浜FMの決意は、Jリーグの処分とともに適切だと思う。
一方浦和は、観客・サポーターの自由な活動を制限したままだ。個々の選手の名前やメッセージを書いた「横断幕」の掲出、サポーターのグループでつくった応援旗などを禁止し、ファンやサポーターが選手やチームへの応援の気持ちを表現する手段はクラブの公式応援旗と自分の声に限られている。
「もしもういちど起きたら、大変なことになる」という思いが、浦和にはある。
繰り返されれば「無観客試合」以上の制裁を課される恐れがある。15点までの勝ち点没収、J2への降格、そしてJリーグからの除名などだ。「クラブが消滅する」という恐れが、「規制解除」をためらわせている。
だがそれは、「クラブはサポーターを信じていない」というネガティブなメッセージと受け取られかねない。若者を中心とした地域の人々と手を携えて歩んでいくしか生きる道のないプロのサッカークラブにとって、そのほうが大きなリスクではないか。
村井チェアマンは、冒頭の言葉を次のようにしめくくっている。
「サポーターとクラブの信頼関係の上に、自由で開放的で楽しい空気にあふれたスタジアムをつくろうという方向に向かっていってほしいと思います」
(2014年9月3日)