PK戦で敗れて準優勝に終わったものの、男子U-16アジア選手権での日本代表は圧倒的な技術を見せ、強い印象を与えた。
正確でタイミングの良いパス、パスを受けるための動き、相手の逆をとるワンタッチコントロール、ドリブル...。若い年代の日本の技術は世界のトップクラスと言ってよい。
だが見ていて非常に気になる点があった。何人もの選手が「前を向かない」ことだ。
フリーの状態で縦パスを受けても、相手ゴールに背を向けたまま自動的にバックパスをするMF。タッチライン際でボールを受けると必ず内側に向き、横や後ろにしかパスをしない左サイドバック。突破しかけているのにターンし、バックパスをしてしまうFW...。
安易にボールを失わないことの大切さが強調されている結果かもしれない。一か八かのプレーではなく、粘り強く相手の穴を探すという試合スタイルなのかもしれない。しかしもどかしい。そのもどかしさに、日本のサッカーの問題点のひとつが表れているのではないだろうか。
今夏最も強烈な印象を受けた試合は、オリンピック男子のスペイン対ホンジュラスだった。日本に敗れて後がなくなったスペイン。この試合も立ち上がりに失点し、絶体絶命のピンチとなった。
猛攻に出るスペイン。ホンジュラスは強いフィジカルを生かして体当たりを連発し、小柄な選手が多いスペインを止める。だがはね返されても倒されてもスペインはひるまなかった。狭いスペースで速いパスをつなぎ、ドリブルで大きな相手を抜き、最後のホイッスルの瞬間まで相手ゴールを襲い続けた。結局追いつくことはできなかったが、スペインの選手たちは感動的なまでに勇敢だった。
「自分のゴールを守り、相手のゴールにボールを入れる」
それがサッカーの本質だ。そのシンプルな目的を達成するためにさまざまな技術や戦術がある。技術や戦術を強調するあまり、本質を見失っているのが現在の日本ではないか。
「前を向かない選手」は、U-16日本代表の問題ではなく、日本の育成システムの問題のように思う。早い時期から「良いサッカー」を教えすぎることの弊害だ。その結果、サッカーというゲームの本質を体得する重要なステップがおろそかになっている。
技術は世界のトップクラスでもサッカーでトップになれない理由、スペインとの違いはそこにある。
(2012年10月10日)
「一生ダイビングヘッド」
日本代表FW岡崎慎司(シュツットガルト所属)は、小学生時代のコーチからこんな言葉を贈られたという。
昨年9月のウズベキスタン戦。0-1で迎えた後半、右サイドからのボールがFW李忠成の頭上を越えて落ちてきたところに、後方から走り込んできた岡崎が飛びついた。
ひざの高さほどのボール。スタンドから見ていたら、まるで地面で鼻を擦りむいてしまうのではと思うほどの低さで飛び込んだ岡崎の頭から放たれたボールは、堅守のGKネステロフを破って日本の同点ゴールとなった。
ダイビングヘッドとは、体を空中に投げ出して行うヘディング。「フライングヘッド」とも言う。守備の場面で使われることも少なくないが、中盤では滅多に見られない。最も多いのがシュートの場面だ。体を投げ出すというプレーの特質上、決定的な状況だけで使われる「必殺」の技と言うことができる。
どういうわけか、私は高校時代からこのプレーが大好きだった。母に叱られながら軟式テニスのボールを使って居間で練習をし、前方に飛び込みながら両足を操ることで体にひねりを入れてボールの方向を自在に変えるテクニックも身に付けた。残念ながら試合で使う機会はあまりなかったが...。
岡崎がドイツに移籍して以来、日本のサッカーではなかなかダイビングヘッドによるゴールを見ない。もちろん高いクロスはヘディングで合わせようとするが、少し低くなると足を上げてけり込もうとする選手が圧倒的に多い。この傾向は、とくに若い選手に強いように感じる。
足でボールを扱うプレーは過去数十年間で大幅に向上した。浮いたボールのコントロールに苦労する選手などもうほとんど見られないし、ボレーキックの技術も高い。しかしジャンプしたりその場に立って足を上げてけるより、体を投げ出してヘディングするほうがより遠くのボールにコンタクトできるのは間違いない。
「ダイビングヘッド愛好家」としては、Jリーグの選手にも、中学生や高校生にも、もっとダイビングヘッドを練習してほしいと思う。いやというほど練習すれば、無意識に頭から突っ込んでいくようになる。
ゴール前で足を上げるのは無精にふんぞり返っているように見える。謙虚に頭を下げたら、サッカーの神様はきっとゴールという門を開けてくれる。
(2012年10月3日)